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迂回の為の通路を皆を率いて走りながら、反乱軍の頭目たるジェルデは不甲斐なさを感じていた。それはズィアルにベヘンの相手を丸投げしてしまったという自責の念からくる不甲斐なさであった。
幾度となく、あの場に留まって戦うべきだったという考えと、今の自分の任務は皆を率いて地上へ脱出してルーノズアを取り戻す事だという考えとをせめぎ合わせている。眉間に皺を寄せて思いに耽るジェルデであったが、そこから滲み出るオーラは隣を走るトマスには簡単に伝わっていた。
しかし、どれだけジェルデが思い悩もうとも既に際は投げられている訳だし、その上トマスにはズィアル達に対して形容できない確信めいた何かがあった。
彼らならベヘンが相手でも引けを取らないだろう、と。
それは彼女の戦士としての勘が成せる業なのか、はたまた別の理由があるのかは分からなかった。
何はともあれ、反乱軍の勢いはもう止まることはない。解放を望み、戦いを選んだ群衆は無事だった全員と言っても過言ではない。決して狭くない通路も地上を目指すルーノズアの住人たちの数の前には広さを感じさせなかった。
やがて彼らは地上へ出るまでにある最後の大部屋へたどり着いた。ここは所謂宿舎である。地下へ逃亡を余儀なくされた場合はここが防衛線となり、逆に地上で戦う場合は伏兵を潜ませるのに絶好の場所となるのだ。
大方の武器や防具は占領された時点で魔族たちが持ちだしてしまったようだが、僅かに残った粗末な武器でも丸腰よりは皆の士気を高めるのに貢献してくれた。これでいざ地上に出ても応戦しながら港へ向かい、船を強奪できる。
ジェルデは頭の中で脱出後のプランを思い描いた。
その時である。
ここを拠点とする際に寝床となる簡単な小部屋の扉が次々と開いて、中から武器を持った魔族が現れたのだった。
「待ち伏せだっ! 全員、戦闘態勢を取れぇっ!!」
ジェルデは反射的にそう叫んだ。
ルーノズアの戦士たちは元より、貧弱とは言え武器を手に入れた町民たちも前線に立っていた者達は武器を構えた。そうして敵を見据えた時、全員が何やら様子のおかしいことに気が付いたのだった。
確かに待ち伏せで奇襲的な登場の仕方だった。しかし、現れた魔族はお世辞にも戦い慣れた様子ではない。反乱軍の先頭にいた戦士たちを除けば、慣れない武器を持った町民たちの鏡写しを見ているかのように魔族たちも震えながらに武器を構えている。戦闘用に訓練されていない事は明白だった。
とうとう、まともに戦える魔族がこの地下迷宮からいなくなったのだ。
ジェルデはそう思った。
こうなってしまえば数でも、戦闘技術でも勝る自分たちの勝利は目前。ジェルデだけでなく、聡い者達は皆がそう確信してた。
だからこそ、とも言うべきだろうか。
ジェルデは敵陣の中にあってはならないものがあったことを、すぐに認めたくはなかった。
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