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ジェルデがその違和感に気が付いたのは他でもなく、彼が一団の先頭にいたからに他ならない。だから時間が経てば経つほどに、眼前にいる魔族たちの奇妙な「ズレ」はどんどんと露見していった。そもそも魔族たちにはソレを隠すつもりは更々なかった。
「タスドル…オロッパス……?」
数十人の魔族たちの中でジェルデは名前を呼んだ二人の魔族に釘付けになってしまった。
タスドルとは彼の妻の名。そしてオロッパスは一人息子の名前だ。
目の前にいるのは自分の記憶の中にある二人とは似ても似つかない魔族のはずだった。それでもジェルデの目には自分の妻子として映っている。
それは二人の着ている服や構えている武器が、偶然に一致しただけかも知れない。ジェルデは必死にそう思い込もうとした。それでも自分の心が強引にその考えを打ち消そうとするのだ。
(これが、あの時言われた事か。まさか、タスドルとオロッパスが………本当に『囲む大地の者』を魔族に変える魔法が存在していようとは)
ジェルデがそうして面を喰らっているのだから、当然のように他の仲間たちもそれ以上に動揺していた。
戦士たちはアーコから話を聞いていた分、ある程度の覚悟ができていた。そうでなくとも戦場で長年の友の屍を踏み越えることも常の戦士たちは最悪のケースも想定したからか、家族や友人たちがあられもない姿に変貌していても歯を食いしばる程度で済んだ。
問題は、そんな覚悟は微塵もしていなかった解放された者達にあった。
なぜ、ここまで姿が変えられているのに、身内だと分かるのか。最早それは誰にもわからないし、重要な問題はそこにはない。
眼前の敵が自分の家族だという事実を受け止められない町民たちは、次々に取り乱し自らの家族の名前を叫び始める。あまつさえ、何人かは手に入れた武器を放りだして無謀にも駆け寄っていった。
それを見て魔族たちは恐怖の悲鳴を上げ、持っている武器を出鱈目に振り回し始めた。素人の攻撃とは言え、それを防ぐのも同じく素人の集団だ。装備を放棄して飛び出した何人かの町民たちは抵抗することもできず身内の刃によって命を落としていった。
魔族たちは相手が自分たちの家族や顔見知りであることをまるで知らない様子だ。そうでもなければあんな取り乱した攻撃ができるはずもない。そして何人かが倒されると最も忌避したかった事態が起こってしまった。
無我夢中で武器を振るったことで、歯止めが効かなくなった魔族たちは自暴自棄になり反乱軍に向かって襲い掛かってきたのだ。
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