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作業場にいた魔族たちを全滅させ、オレ達パーティは急ぎジェルデ達を追いかけ出した。とは言え全速力を出す訳にはいかない。追い付いたとしてもこの後に地上へ出ての逃走戦が待っている。戦えるだけの体力や精神力は温存しておかなければならない。
その時、ジェルデ達が向かったであろう方向から誰かがこちらに向かってくる気配を感じた。
一人や二人の気配じゃない。かなりの人数が移動している…? 通路が入り組んでいるせいで易々と確認できないのがもどかしい。
オレ達は足を一旦止めた。
「トスクル、頼めるか」
「はい。お任せください」
それだけでオレの意図を汲み取ってくれたトスクルはすぐに一匹のイナゴを手から出して発射させた。壁や床を飛び跳ねて進んでいく。目を閉じてしゃがみ込み、意識を集中させている。だが、ほんの数秒で何事もなかったかのようにすくっと立ち上がった。
「大丈夫です、進みましょう」
「何があったんだ?」
「行けば分かりますよ。その角を曲がれば」
促されるままにオレ達は歩を進めた。すると、トスクルが言った通り疑問は晴れた。
先ほど解放したはずのルーノズアの住民たちが意気消沈の表情を浮かべながら、足取り重く道を引き返してきていた。皆は少なからず闘志に燃えた目をしていた…が、それはものの見事に吹き消されている。
詳しくは想像するしかないが、この先で何かがあったのは間違いない。戻ってきたのが町民たちだけなのを見るに、戦闘に加わる意思のない者たちをジェルデが説得でもしたのだろう。
頭数は減っただろうが、進軍する奴らの士気は上がる。何度も何度も闘いを見てきたが、数はアテにはならない。この段階で戦う覚悟を持てない奴らを早めに放棄したのは、英断とも思える。流石は湖港英傑の一人と言ったところか。
彼らは当然、行く先にいた俺達に気が付いた。
一瞬、ビクリと危機を感じた様な反応を見せたが、正体が分かると実に申し訳ないというか、不甲斐ないというような顔になり通り過ぎていく。
ついつい足を止めてしまったが、彼らが戻ってきたという事はいよいよ覚悟を決めた者達が地上へ出てルーノズアへ奪還作戦を決行する段階になったのだ。
「行くぞ」
オレは自分にも言い聞かせる意味で改めてそう言った。わざわざ振り返りこそしなかったが、後ろにいたパーティの全員が決意を込めて、頷いてくれたと強く確信していた。
同時に心臓が一跳ねして熱い血液が全身に回るのが分かった。するとルージュを持つ手がブルブルと武者震いを始めたのだった。
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