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引き返してきた町民たちから見れば逆走する形でオレ達は駆けて行った。すぐに少しだけ開けた場所に出る。そこは魔族の姿でも容易に感じ取れるほど血の匂いに満ち満ちていた。
見れば魔族たちの屍が死屍累々と転がっている。これがさっきの連中が引き返してきた理由だろうか。戦いについて行けないと悟ったのか…?
(いや、違うな)
その時、ルージュの声が頭の中にこだました。ただそれが示す意味は理解しかねていた。するとルージュは言葉を続ける。
(この死体の山は恐らく、魔法で姿を変容させられたルーノズアの『囲む大地の者』だろう。戦闘になってやむを得ず殺し、そのショックに堪えられなかった奴らが武器を捨てて逃げ帰ったといったところか)
(…なるほど)
ともすれば、ここでそれが原因で仲間割れにならずに済んだのは僥倖だ。いや、ジェルデのカリスマ性が活きたのかも知れない。町民たちは敵側がそのような計画を立てていた事を知らなかったのだから、事実を聞かされた時の衝撃は想像に難くない。自暴自棄になり、最悪は反乱軍が分裂していたかもしれない。
だが、その最悪は避けられたにしてもかなりの人数が離脱した事で士気は間違いなく下がっているはず。
「急いで追いかけよう」
烏滸がましいかと思ったが、オレ達が合流すれば多少は盛り上げられるかもしれない。謙遜をしても、戦力として見ればオレ達をなくしてこの作戦の遂行は難しいはずだ。反対に彼らの力をなくしてオレ達の目的を達成することは出来ない。
心配をし続けるのもいい加減に疲れる。
さっさと合流してしまいたい。地上に出れば行動制限はなくなり、思い切り頭に浮かぶアイデアを試すことができるのだから。
そう思うが早いか、オレ達はジェルデが向かったであろう通路を急いだ。血の匂いがこい部屋にいた分、通路に漂う空気の質が変わったことはより一層際立って伝わった。これは光の匂い。太陽の光が届くところでだけで味わえる匂いだ。特にこういう地下迷宮や洞窟から脱出が叶った時に、一番最初のご褒美として鼻をくすめる香りだった。
地上が近い何よりの証拠。
しかも、朝になっているらしい。色々あってついうっかりしていたが、この地下での時間は思ったよりも進んでいたようだ。案外丁度いいかもしれない。この時期、港町の朝は霧や靄が出やすい。奇襲をかけるとなればうってつけだ。
そう思ったのも束の間、オレの耳に鬨の声と同じく爆発や建物が倒壊するような派手な音の数々が響くように届いた。
いよいよ地上での戦闘、つまりはルーノズアの奪還が始まったのだった。
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