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ジェルデ達を追いかけ、オレ達は階段を駆け上った。そうして行き当たったのは乱暴にこじ開けられた形跡のある扉だ。黴と埃の匂いが開けられた穴から地下の通路に流れる風に乗っていた。
それを潜り抜けた先は倉庫になっており、大小様々な木箱が詰まれている。察するに地下の作業場で製造された魔族の登録印が入っているのだろう。すでに解放された者達の姿はないが、埃の溜まった倉庫を見れば大人数がこの部屋を通過して行った事が丸わかりだ。それ以上に絞められた窓の隙間から差し込む朝の陽ざしと共に、この倉庫の外では暴動が巻き起こっている騒音が聞こえてきていた。
「さて、どうなっているのかな?」
アーコが悪戯に笑いながら、そんな事を呟く。だがその疑問の答えはオレも頗る気になっていた。不謹慎だとは自分でも思ったが、倉庫から飛び出して街の光景を見る時の感覚は、子供が誕生日に貰ったプレゼントの箱を開ける時と似ている気がした。
外は文字通り戦場と化していた。思った通り朝靄に包まれていると、一瞬はそう思ったが鼻に入ってくるきな臭さがそれを火災で巻き起こっている火事の煙なのだと教えてくれた。
屍として転がっていたり、怪我をして瀕死の状態になっている魔族たちはいずれもが普段着や寝間着姿をしている。その様子が奇襲は成功したのだと言う何よりの証だ。おまけに破壊された痕跡がジェルデ達の通った道しるべとなっているのもありがたい。どうやら当初の計画通り真っすぐに港を目指して進んでいるようだ。ならばオレ達の向かう場所も一つに決まっている。
「オレ達も港に向かおう。ここから先は四方八方に気を配れ、本当に何が起こるか分からないからな」
最悪の場合は得た情報が間違っており、魔王やその眷属たるかつてのパーティの誰かしらと戦闘になることだってあり得る。ただどちらにせよ、オレ達には急ぐ以外の選択肢はない。
偶然の一致かもしれないが、船着き場の近くに出れたことは幸運だ。
街の中は文字通り阿鼻叫喚となっている。血と焼かれる街の咽かえるような匂いも酷かったが、特に泣き叫びながら親を探す子供の姿と声は、相手が如何に魔族といえども毒だ。悲痛な嘆きが聞こえる度にゴリゴリと自分の中の良心が削られていく。
このような場面は幾度となくあった。それでもまだ良心がどうのこうの言える感覚が自分に残っているのは幸か不幸かは分からない。
ただ昔と違うのは、それくらいの理由で振るう剣を鈍らせることはない。そう断言できる事だった。
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