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そうして路地を迂回していると、突如として大通りの方から大きな爆発音が聞こえた。恐らくはどちらかが放った魔法だろうが、何となく異質な気配を感じた。どちらにせよ牽制やこけおどしの威力ではない。万が一、こちら側に向かって放たれた攻撃だったとしたらかなりの損害が出ているかも知れなかった。
「あ、あの音はちょっとマズくないですか?」
「ああ。敵か味方か…どっちにしても確認しておいた方がいいだろうな」
向こうの大通りの様子が気になって、アーコに様子を見てきてもらおうかとも思ったがその考えを打ち消した。外に出た以上、目的は船を使って沖に出ること。偵察とは言え、土地勘のない場所で別行動をしたくなかった。
何とか窓やドア越しに状況を伺おうとしたがそううまくはいかない。が、そのおかげで一つ妙案が浮かんだ。何も馬鹿正直に路地を通る必要はない。どうせ船を奪還すれば水上に出て、他の町々に今この世界で起こっていることを告げ知らせに行くのだ。だから多少なら家屋を壊してしまっても、すぐに差し支えるような事態にはならないだろう。
思うが早いか俺はドアを蹴破り、何かの店の中を乱暴に進み陰から外の様子を伺った。
まず確認できたのは悪い状況だった。先の爆発音はどうやら反乱軍に向かって放たれたものだったらしい。粉塵の中で倒れたり、驚きすくみ上っている者たちが多かった。だが幸いなことに甚大な被害は出ていなかった。それもそのはずでトマスが自らの魔法を使って爆風から皆をかばっていたようだ。本人も大した被害を受けている様子は皆無だった。
だからこそ、青ざめて脂汗を掻いている理由が分からなかった。
つい味方の被害状況に目を奪われていたオレ達は誰が言ったわけでもないのに、自然と動きが重なった。それはつまり顔面蒼白なトマスが見つめている視線の先を確かめたという事だ。
そして行き着いた先で、オレ達は彼女のように言葉を失い、唖然としてしまった。
トマスの前方には他ならぬ魔王の姿があったからだった。
◇
「な、あ…」
そんな声を絞るようにして出すのが精一杯だった。だがそれを恥ずかしいことだとは、その時は思えなかった。その場の全員が俺と似たような反応だったからだ。唯一、キョトンとして事の重大さを飲み込んでいなかったのは、奴についての記憶が消されているラスキャブただ一人だった。
「え? え?」
石のように固まるオレ達の様子を見て、ラスキャブは慌て始めた。その様子が妙におかしくて、反対に冷静さを取り戻すきっかけになってくれた。
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