Episode1

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「おい! どういう事だ!? 元の姿に戻れなくてもいいって事か」 「いや、元の姿に戻れないのは困る」 「だから俺とラスキャブを開放しろっつてんだろうが」  小さい魔族はごちゃごちゃと文句を言っていたが、一旦それを放っておいてラスキャブの方へと四本足でのそのそ近づいた。 「ラスキャブ」 「は、はい」 「まだ出会ってから日は浅いが、オレはお前が旅に必要だと思っている。だから手元から離すつもりはない。すまんな」 「いえ・・・」  ラスキャブはどうしていいのか分からないといった顔を惜しげもなく見せつけてくる。 「とは言っても、昨日オレ達から離れるチャンスはあったんだ。何か思う事はあっても自業自得というやつだな」  そう言ってニヤリと笑った。正真正銘の狼の笑顔という余程不気味だったのか、ラスキャブは「ひぃっ」と微かな悲鳴を上げた。  続いてルージュの方を見る。やはり腑に落ちない、というかオレの意図が全く分かっていないという顔だ。ルージュは案外、顔に考えが出るのが面白い。それでも忠臣の心得からか、オレの意見は飽くまでも尊重する態度を見せた。 「しかし、それならば一体どうする? 呪いを解く方法に心当たりでもあるのか?」 「いや、そんなものはない」 「だったら、物は試しだ…こいつを殺せば呪いが解けるかどうかやってみるか」 「ふざけんなっ。俺の意識と変身術は無関係だ。殺したところで姿が変わりゃしねえよ」 「安心しろ。誰も殺すなんて言ってないだろ」 「主よ。ならどうするというのだ?」 「一緒に連れて行こうと思ってな」 「「は?」」  息ぴったりに声を揃えたルージュと小さい魔族は、互いが侮蔑的な目で、互いを睨みあった。 「理由は…そうだな。オレの姿を戻せるのはこいつが一番確実だし、かと言ってラスキャブを手放す訳にも行かない。その上、オレの記憶を覗かれ魔王を討つべく旅をしているという事を知られてしまった。これは他人には覚られたくない情報の筆頭だ。情報漏れの対策は用心し過ぎるなんてことはない、目に見える所に起きておくに限る。それに、こいつの記憶も反対に少し覗かせてもらった。魔王に、オレが知っている魔王よりも更に昔からの因縁を持っている」 「何だと?」  魔王との因縁という言葉に、ルージュは露骨に反応した。因縁という意味ではルージュの関心はオレよりも高い事だろう。 「それにな・・・」 「何だよ?」 「お前は退屈したくないんだろ? ならオレ達と来い。未来の事など分からないが、少なくとも退屈する暇がないことだけは保証してやる」  小さい魔族はオレを一瞥して、さも不満気に告げる。 「おい、肝心な事忘れてないか? 俺はフォルポス族が嫌いなんだよ。ご機嫌取ってやろうと少し隙を見せたからって調子に乗ってんじゃねーぞ」 「くぁぁぁぁ」  さっきすっきりと目覚めたというのに、思わず欠伸が出た。小さな魔族は引きつりつつも、口を開けたまま固まってしまった。 「あ、すまん。口を押えようと思ったんだ、足になっていた」 「て、てめぇ・・・」 「フォルポスが気に食わない事情は知らんが、今は大丈夫なんだろ? オレは今、ただの狼だ。そんなオレを操って共連れにしようとしたって事は、この姿だったら大して嫌悪感を持っていないってことだ。違うか?」  そんなオレ達のやり取りを見ていたラスキャブとルージュは、何やら耳打ちし合っていた。 「何だかザートレ様、性格変わってません? 適当というかいい加減というか…」 「お前もそう思うか?」  そんなボヤキも納得だ。確かに狼になった後と前とじゃ、気軽さが違う。 「狼の姿に変えられる前に少し頭をいじられたからかな・・・さて話を戻そう、誰が何と言おうとオレはお前を連れていく。ルージュ、悪いがこの檻をオレの首から下げられるようにしてくれ」 「…承知した」  首輪を付けるなど、フォルポスの姿をしていた時には考えられないことだったが、意外と付け心地は悪くない。呪いが解ける方法を見つけるまで、気長に居ようかとも思っていたが、これはよろしくない。下手をするとこっちの姿の方が気に入ってしまうかも知れなかった。
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