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何枚目かの妹の絵を描いているとき、ふと背景に湖を足そうとしたことがあった。しかし、なぜ湖を必要としたのか、ただ何となくではない気がして、自分の思考の奥深くに、うっかり足を踏み入れてしまった。
そして、そこでやっと気づく、
いや、気づいてしまう―。
―実はあの時、湖に入ろうとしていた妹が、向こう岸で足を水に浸した妹が、私の目にはどうにも美しく見えてしまったのだ。
彼女の生死がかかった瞬間、自分の最も悔やまれる瞬間、その一瞬に自分が感じたもう一つの感覚。
妖精が姿を変えた人間とは彼女のことではないかと見紛うほどに。同じ人間でありながら、自分とは全く違う世界の者だと思わせる、わずかな妖気を漂わせて。自分と同じ血を持っているはずなのに、自分にはない誰かの血縁を感じさせたその姿に、
ほんの一瞬、憧れを抱いたのだ。
心のどこかで感じたこの憧れを、再現したくなってしまったのだ。飽きずに何枚も彼女を描き、彼女を成長させ、終いには湖と一緒に描けばと思い立ったのは、そんな理由からだったのだ。
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