マイム・マイム

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  「さっき電車を降りたところから始まるんだが、  目の前を通り過ぎる女性の、風になびいた黒髪に、どうも見覚えがあってな。厳密に言うと、黒髪でストレートなロングヘアとそれを後ろの低い位置で一つに結わえた姿に見覚えがあったというべきか。特にその髪質から細い束になった髪が艶やかになびく様子を私はよく知っていたんだよな。  しかし、その女性は初めて見る人で、自分が誰の髪型と照らし合わせようとしているのかはその一瞬ではわかり得なかった。  そしてまた、私はお前を待たせていたから、仕方なくそのまま歩を進めたんだ。  ホームを抜ける階段を上る途中、どうしてももう一度その髪型を確認したくなって、つい、人の流れに逆らって後ろを振り向こうとしてしまった。    だが、私の行動が急だったのがいけなくてな、私の真横を女性が足早に駆け上ったんだが、あんまり距離が近かったもんで、思わずよろけそうになった。寸でのところで踏みとどまれて命拾いしたんだが。  それに気付いたのか、自分の五段ほど上まで進んだその女性も、軽く振り返ったが、随分急いでいたのかそのまま足早に去って行ってしまったんだ。    しかし、ここに問題がある。  その女性にも何だか見知った感じを覚えたんだよ、自分でも驚いたさ。  そしてどうもそれが彼女の目元から来てたらしくてな、可愛らしい顔つきの人ではあったが、中でも特に、あの目だ。彼女の切れ長の目が、異常に印象的だった。  足早にいなくなってしまったその女性のことを考えて、少しボーっとしながら改札を抜けて、外の光を感じ始めたときに、また気づいた。  あ、見損ねてしまった。ってね。  先の髪型だよ。すっかり確認しそびれてしまったことを思い出したんだが、もう仕方がないだろう?その後、自分の思いつく限りの黒髪の女性を思い浮かべてみたりもしたが、結局誰とも合致しないんだ。  なあ?不思議だろ?    まあ、一応ダメ元で。  お前は、そんな女性らに心当たりがあったりするかい?」
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