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「しかも、日に日に成長していくんだ。『君の絵が』じゃない、『絵の中の彼女が』だ。いや、確かに君の絵の腕も成長はしていたが、彼女を描く頃にはほとんど成熟しきっていたんだよ。
まるで生きた人間の成長録さ。確かに妹さんの面影を残したまま、無垢で夢見がちな少女が透明感と艶のある美しい女性になっていく姿と言ったら。
あくまで絵の中の話のはずなんだが、君の描く彼女の変遷は何とも現実としか思えなくてな。あれは今思い返してみても、ゾッとするほどだよ。
さて、今君はどこまで思い出しているかな。」
もはや、自分の様子を窺う彼の視線は気にしていなかった。
―そうだ。彼女を描き始めて、少し経った頃、
「もし彼女が生きていたら、今頃は」という、残された者特有の思考回路から、つい、絵の中の彼女も成長させてやろうなどという余計なおせっかいが働き始めたのだった。
きっと、こんな髪型で、こんな瞳で、こんな顔立ちで。
なぜか筆が止まることはなく、とにかく絵の中の妹に酔いしれてしまっていたものだ。
しかし、ここまでくると昔馴染みであったとはいえ、気味も悪いだろうに、そんな自分から距離を置くことなく、つるんでくれていたとは、この旧友もなかなかに精神の出来上がったやつなのかもしれないとさえ思えてくる。
久々に視線を返してみると、急に彼が自分よりも大人びて見えて、少々悔しかった。
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