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19:33    まだ迎えは来ない。春の爽やかな夜の風は、俺を少しだけ凍えさせる。早く来てほしいと願うが、来てもらっている身だからじっと我慢して待っているしかない。 「ねえタカシ。もっとしっかりしてよ!」    すると、自動販売機の方から女性の甲高い声が聞こえた。 「うるせえなあ。しょうがねえだろう。こんな不景気なんだからよ!」 「そういうことじゃなくて、家庭のことよ。私たちのこれからについて、もっと真剣に考えてって話よ!」 「はあ? 知るかよ」    何かと思えば、先ほどのバカップルだった。今はどうやら喧嘩をしているらしい。煩わしいから家でやってほしい。あの手のいざこざを見ていると胸の内がムカムカしてくる。痴話喧嘩が一番嫌いだ。二人で酒でも飲んで早く寝てくれ。 「私、ずっと待っているのに、タカシは全然考えてくれないじゃない。どうして?」 「考えるも何も、無理に決まってるだろう。俺だって余裕がねえんだからよ!」 「結婚もしているのに、どうしてよ……」    まるで選挙カーみたいに耳を塞いでも聞こえてくる爆音で喋っているから、嫌でもノイズが聞こえてしまう。今の話から推測すると、あの女の方は子供を作りたいが、男は金銭的に余裕がなくて作ることができない。きっとそんなところだろう。 「私、一年前からずっと言っているよね? なんでお金に余裕がないの? タカシ、貯金とかしてないの?」 「いや、しているけどよ。仕事先で使ったりするからなかなか貯めることができねえんだ。それに、給料から色々取られちまうんだ。全部この国が悪いんだよ。税金ばっかり取るからよ、俺みたいな頑張り屋が報われねえんだよ!」    ライオンの毛を彷彿させる髪の毛を生やすタカシが苛立ちを募らせている。そのうち彼女さんを噛み殺してしまいそうだ。だけど俺が止める理由はないし、あの手の人間は何をしてくるか分からない。ここは日本人お得意のスルーを貫くしかない。俺はなるべく気にしないように心がける。
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