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「おい、何を考えているんだ! 止めろ! 落ち着けよ!」
先ほどまで俯いて死んだような顔をしていたタカシも、今は正気を取り戻してしっかりと怯えている。
「てめえ、マジでぶっ殺してやる!」
「いや、待ってくれ」
しかし、虎柄女はすでに殺害を決行する寸前まで行動を起こしてしまっている。
「死ねえ!」
これは流石にいかん。傍観者として見ている場合じゃないかもしれない。しかし、生憎俺の足はこのザマだ。助けに行く前に血だらけになってしまうだろう。
「止めなさい!」
そんなときだった。改札の方から張りのある声が聞こえ、虎柄女の動きが止まった。
「たとえその人を殺しても、誰も報われませんよ!」
その人は駅員の格好をしている。きっとこのゴタゴタを見て駆けつけたのだろう。
「でも、こいつは最低な人間なんだよ! アタシが殺さねえと」
「ダメです。あなたが殺しても、あなたが最低な人間になるだけですよ。あなたが傷つくだけなんです。さあ、その包丁をしまいましょう!」
「でも、でも……」
身動きが取れなくなる虎柄女に対して、駅員はさらに加勢を強めた。
「冷静になりましょう。さあ、包丁をしまって」
「ちくしょう」
虎柄女は顔面が崩壊するほど涙を流して、駅員の言う通りその包丁をカバンにしまおうとした。
「クソ女が!」
しかし、またも予想外な展開が起こってしまった。なんとタカシが包丁を奪って、その刃を虎柄女に向けたのだ。
「俺の人生はもう終わりだ。俺はお前たちを愛していたのに、裏切りやがって! お前ら二人とも殺して、俺も死んでやる」
まさに逆恨みの骨頂だ。これは最悪なシナリオを辿るかもしれない。タカシの眼は悪魔に乗っ取られたように充血していて、もはやモンスターと化している。もう、今のあいつを止めるのは難しいかもしれない。
「おい、馬鹿な真似は止めなさい!」
しかし、タカシは虎柄女と違って威勢的だった。
「うるせえ! さっきから偉そうに喋りやがって! てめえからぶっ殺してやる!」
そう言って、タカシが刃の先を駅員に向けた。駅員も流石に一歩後退し、距離を取っていく。
「クソ、もう何もかも終わりだ!」
タカシが目を見開き、虎柄女に向けて包丁を振りかざそうとした。
「キャー!」
俺も一瞬目を背けてしまう。
しかし、何か図太い音が聞こえ、二秒後に目を開けて見るとなぜかタカシが吹っ飛んで横になっている。そしてすかさず確保された。
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