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「いや、なんで来ているんだ? それに、どうして俺の最寄駅を知っているんだよ。え? 前に飲みに行ったときに教えてもらった? 俺は教えていないはずだぞ!」
おやおや。これは新展開だ。
「待ってくれ。今日は来ないでくれ、頼むから」
タカシは明らかに動揺して、足をジタバタしながら泣きそうな顔になっている。俺はなんとなくここへ来たお客様の正体が分かった。それはユメさんも同じらしい。
「あんた、まさか」
「い、いや。違うんだ。仕事仲間が来るって言うから、つい慌てちゃったんだ。ほら、俺まだお前のことを紹介していないから、緊張しちゃっているんだ」
不自然な笑みをユメさんに向けているが、ユメさんは「本当?」と疑いを隠さない。
「本当だよ。俺が嘘をつくはずがないだろう」
「あ、タックン! 迎えに来てるじゃん! 速いね!」
タカシが慌てふためいている間に次の電車が到着したのだろう。乗客が降りてきて、その中にいたと思われる先ほど電話をかけた主が、ハイテンションで二人に近づいた。彼女は関東にすら似合わない虎柄の長袖シャツを着て、おまけに目を背けたくなるピンク色のハイヒールを履いている。俺が知っているマスコミはもう少し堅いイメージがあったが、彼らはいったいどこでテレビを作っているのだろうか。
「タックン? 何よ、その呼び名は?」
ユメさんは当たり前だが怒った。
「い、いや違うんだ。ユメ、冷静になれよ」
それはお前だろうと俺は心の中で突っ込んでしまう。
「誰、その女?」
今度は虎柄の彼女がタカシに訊いた。彼は完全に板挟み状態に陥っていた。焦っているのか、先ほどから全身の動きが落ち着かない。手で額をぬぐったり、掌をスリスリしている。
「いや。ああ、そうなんだよ。実はさ、彼女は俺の中学校の同級生なんだ。さっき駅で偶然出会って……」
「何ふざけたことを言っているの!」
言い訳無用。言語道断。そんな想いが込められたようなユメさんの強烈なパンチがタカシを殴り倒した。
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