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19:26 『ごめん、今渋滞しているから、駅着くの遅くなっちゃうかも!』    妻から連絡が入る。だけどおそらく、助手席に座っているのは二十になる娘だろう。お母さんの携帯を借りてメールしたに違いない。俺の妻はびっくりマークなんてつける人間じゃないから、すぐに分かる。一緒に買い物でも行っていたのだろうか。 『わかった。待ってるね』    二週間前。足を骨折してしまい不運にも自転車が漕げなくなった俺は、駅からほど近いスペースに設置されているベンチに座って、妻の迎えを待っている。もちろん、タダとはいかない。 「わかってるよ。かに道楽に行けばいいんだろう?」    大のかに好きである妻は、「そこまでしなくてもいいのに」と言いつつも、イラストで描かれた七福神並みにニッコリと笑っていたから、本当に連れて行かないと大変なことになるだろう。    それにしても不運なものだ。階段から滑り落ちて足を折るなんて、そんな仕打ちあるかよ? と天に向かって尋ねたくなる。ただ、打ちどころが悪ければあの世行きだった可能性も考えると、不幸中の幸いとも取れる。 「なんだかなあ」    俺は妻が迎えに来る間、ベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。俺の近くでは、表参道でも歩いていそうな大学生らしきお洒落イケメンが、ずっとスマートフォンをいじっている。きっと、彼女と待ち合わせをしているのだろう。この街にもまだ彼みたいな人材が残っていたのかと思う。すっかり廃れてしまった建物を見ると、この街も衰退しているのが一目瞭然だったからだ。    すると、電車が到着したのだろうか。改札から雪崩れるように乗客が出てきて、それぞれの方向へと散らばっていく。    しかしその中で、自動販売機の近くで立ち止まった男女がいた。両方が明るい茶髪に染めていて、湘南を思い起こさせるアロハシャツを着ている。男に関しては白い半ズボンでサンダルときた。おいおい、今はまだ春だぞ。それにここは埼玉だ。海なんてないぞ。    何を浮かれているんだか。    俺は呆れてほろ苦いコーヒーを飲み干した。
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