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対戦が始まると明らかに久遠は心から楽しんでいるといった様子を見せた。
「その位置とタイミングだとギリ攻撃が届かないんだよね」
「くっ、これなら!」
「残念、それはカウンターできるんだよ。まだまだ細かな知識と技術不足かな。まあでも一番は相手が悪いだけだからお気になさんなー」
アイドルスイッチの入ってない状態でこんなに饒舌な久遠は初めて見るかもと冬凪は思った。
室瀬航大は結局一撃も与えることができずに2敗して宣言通り久遠の勝利で終わった。
「いやー実際に面と向かった状態の対人はやっぱり楽しいね。着替えたら2人は学園祭まわってきていいよ。俺はここでゲーム見てる方が楽しいし、さすがにこいつ一人にはできないからさ」
「あまり目立ってバレないといいんだけど……とりあえず冬凪ちゃんの衣装貸してもらうね」
冬凪はここでやっと先程久遠と眞津藻瑠々の2人で話していたことの意味が繋がった。
「なんか気を使ってくれて……本当にありがとう! こっちに着替えスペースあるから」
「オッケー! 全然気にしないで!」
眞津藻瑠々に衣装を貸して冬凪は制服へと着替えた。
「ゲーム内にもある装備で、キツネのお面っていうのも用意してて一応顔は隠せるけど……」
「あー、そもそも部外者だし万が一バレたら面倒だしそれも貸してもらおうかな」
コスプレ衣装にお面で完全に誰だかわからない状態になった。ただ、冬凪よりも小柄な眞津藻瑠々が衣装を着ると少しゆとりが出てしまい隙間からの露出が大丈夫かと不安になる。
「少し大きいけど大丈夫?」
「動きづらいとかはないし、あとはまあ、そもそも顔もわからないわけだから何か多少見えちゃっても大丈夫!」
眞津藻瑠々は元気よく応えた。さすがテレビに出るような人は肝が据わっているなぁと思った。
「時間なくなるから早く行っていいよ」
「あ、うん、行ってくる!」
更衣スペースから出て冬凪はナラムへと話しかけた。
「2人が時間作ってくれたみたいだし……一緒に学祭見てくれる?」
「もちろん! 学祭とか普通に見て回るなんて初めてだから凄い嬉しい」
ナラムの喜んでくれた様子を見て冬凪も無性に嬉しく感じた。
「でも一緒に行けるのが冬凪だからっていうのが一番嬉しいことだけどね」
到底お世辞で言っているような素振りもなく、今の純粋なナラムの気持ちというのが感じられ冬凪は思わずナラムから視線を逸らした。
「……ねぇ、なんか最近そういうの……多くない?」
「ん? なんのこと?」
自分の反応を見られているのか、深い意味がなくただ自然と出ている言葉なのか、ナラムの様子からは判断がつかず多少のモヤモヤが冬凪の心を包んだ。
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