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「本当にただの一般人? 学生証とか持ってないの?」
眞津藻瑠々はそう言いながら応接の椅子に座り冬凪と対面した状態となる。冬凪は言われた通りカバンから学生証を取り出し躊躇うことなく差し出した。
「名前をネットで検索していい?」
「どうぞ」という冬凪の返事を聞くと携帯電話を取り出し操作し始めた。「あれ? んー」などと独り言を呟き何度か首を傾げる。
「本当にどこにも名前出てこないね。少しでも芸能活動してれば何かしら情報が出てくるものだけど……。ありがとう」
まさか本当に一般人だとは思っていなかったのか、少し不満気な表情で冬凪へ学生証を返した。
「えーと、それでこんなところまでわざわざ来て、私に言いたいことって何?」
警戒されているせいなのか、それとも久遠と同じくアイドルスイッチみたいなものがあり素が今の状態なのか、見た目の可愛さとは裏腹に愛想のないとても冷たい印象である。
「予想はついているかなと思いますが……今SNSで話題になっているあなたと來夢の画像のことです」
「やっぱりね、それで何?」
「あれは來夢を騙して……あの場所に誘導したんですか?」
「騙したって酷い言い方。証拠はあるの?」
「ないですけど……いつも変装したり気を使っている來夢がほとんど何もしてないで出歩くなんておかしいので……」
「何それ全然証拠にならないし」
言い方の一つ一つがまるでドラマの役ではないかと思うくらいに感情がこもっている。こんな場面ではあるが、さすが女優だなと感心せざるを得なかった。
「そう言えば久遠からここの住所聞いたっていうのは本当なの?」
「はい、嘘はつきません」
「ダイパレの2人とも……口ぶり的に久遠とも來夢とも知り合いってこと?」
「2人の連絡先も知っています」
「すごっ……」
「え……?」
「あ、いや、なんでもない」
一瞬本気で驚くような素振りを見せたが眞津藻瑠々はまた元の状態へと戻った。
「2人とはどういう関係なの? ただの知り合いなんてことないよね?」
「えぇと……なんだろう……遊び仲間かな?」
「そんなに遊んでるの?」
「まあ、私は常に暇だけど、あとは2人が遊べる時なら……」
遊ぶと言ってもオンラインゲームの話だけど、と言おうとした時、眞津藻瑠々が突然立ち上がった。
「ついてきて」
そう言うとエレベーターの方へ歩き出した。何が起こったのか意味がわからなかったが、とりあえず指示に従い冬凪はついて行くことにした。
エレベーターに乗り込むと眞津藻瑠々は最上階のボタンを押す。最上階は彼女の部屋があるフロアだと思いながらも冬凪はただ黙っていた。
エレベーターを降りて長い廊下をやや歩くと、眞津藻瑠々は一つの部屋のドア前で立ち止まりカードキーを差し込んだ。鍵の開く音がする。ここが眞津藻瑠々の家ということだろうが何故いきなり連れてこられたのか。
先程の会話だけで信頼ができると判断されたとは到底思えないが。
「どうぞ、一人暮らしで誰もいないから身構えなくていいよ」
「あ、はい。お邪魔します」
玄関だけでも広くてキレイだ。こんな立派な家に入ったことがないのでそれだけで緊張する。
眞津藻瑠々は靴を脱ぐと冬凪を気にする様子なくリビングの方へ行った。冬凪も慌ててついて行きリビング内へと入る。
部屋自体はとても広いがそれに反して、物や家具自体はあまり置いてない。そんなシンプルな部屋ではあるがインテリアはお洒落で可愛らしいものばかりだった。
「ねぇ、來夢と久遠、どっちが好き?」
冬凪が部屋に見惚れていると、眞津藻瑠々が問いかけた。
「どっちが好きとか……恐れ多いので考えたことないですけど……最初に知り合って仲良くなったのは來夢の方です」
「じゃあ來夢のことが好きってことね」
なぜそうなるのかとツッコミを入れたかったが我慢した。すると突然、眞津藻瑠々が冬凪へ向かって頭を下げた。
「お願いします! お姉様! 私の相談にのってくれませんか!?」
眞津藻瑠々の豹変にすぐに反応が出来なかった。(えっ、えっ……お姉様ってなに!?)
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