第4話 相楽木久遠

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「あの……え? いや、顔上げて下さい! えーと……いきなりどうしたんですか?」  冬凪は予期せぬ出来事に慌てふためき、わたわたとしながら声をかけた。眞津藻瑠々はその呼びかけに応じてやっと顔を上げた。 「芸能人でもないのにダイパレの2人と仲良くて、特に久遠なんて絶対連絡先とか教えないし、女優やアイドル仲間でもプライベートで遊んだなんて聞いたことない! その久遠すらも仲良くなってしまう程に経験豊富ということで尊敬の意味を込めてお姉様と呼ばせて頂きました!」  そう言う彼女の目は光り輝いていた。先程までは明らかに自分の方が立場を下に見られていたのに対して、突然の尊敬の眼に冬凪はどう対応したらよいのか戸惑った。  しかし一つ気になることがある。眞津藻瑠々が一緒に写っていた写真の相手はナラムであるが、彼女が好きなのは言動から察するに久遠の方であろう。なぜあの写真を撮り、拡散したのかがわからない。 「眞津藻さんって、久遠が好きなんですか?」 「もちろん! めちゃくちゃ好きです!」  元気いっぱいに応える。先程の冷酷な表情の彼女と同一人物なのかと疑ってしまう。 「改めて聞きますけど……あの写真って眞津藻さんが誘ったんですか?」 「はい……全部白状します」  最初に会った時のように真面目な表情へと変わった。 「最近お仕事で一緒になることがあって、撮影後にどうしても話したいことがあると言って来てもらいました。來夢からはまた別な日に出来ないかと言われましたが、変装させたくなかったのでどうしてもその日がいいと、無理を言って来てもらいました。あのホテル街が近道でそこを抜けるとファミリーレストランがあります。そこに行こうと提案しましたが、当然來夢は嫌がりました。それでも無理やり来てもらい私は彼の手を引っ張って歩きました。あとは、あらかじめ頼んでいたプロのカメラマンが物陰から写真を撮り、楽しそうな良い雰囲気の写真をその中から選んでくれたんです」  ここまで黙って聞いていた冬凪だが、写真の背景は理解できた。しかし対象がなぜナラムだったのかはまだわからない。 「なんで來夢なんですか?」 「久遠と初めて会ったのはそれのさらに少し前なんですが、接するうちに本気で好きになってしまいました。何度か久遠にアプローチをかけて誘ったりもしたんですけど全然ダメで……こうなったら來夢の方を誘ってスキャンダルを作り、ダイパレを窮地に追い込むためにしました……」 「久遠を振り向かせるために……? どういうこと?」 「えぇと……ダイパレが解散しそうなやばい時に私が優しく声をかければ、きっと今度こそ久遠は興味を持ってくれるかなって……」  冬凪の中でやっとすべてが繋がった。わからなくもない主張ではあるが、実際にそれをやってしまうという眞津藻瑠々の行動力にはある意味尊敬してしまう。 「あんなに一生懸命アイドル活動やってる2人なのに……そんなことしたらダメだよ……」 「ごめんなさい! 今回の件は全力で責任を持って鎮めます!」  そう言うとまた深く頭を下げた。 「あと……無事に騒動が落ち着いたら、私と友達になってくれませんか?」 「え、私なんかでよければ」 「ありがとうございます! 最初に言った相談はこのことなんです! 2人で協力して、私は久遠を狙うので冬凪さんは來夢狙いで頑張っていきましょう!」  話し終わると同時に眞津藻瑠々から抱き着かれ冬凪はとても驚いた。そして彼女の勢いと前向きさにはとても感心させられた。
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