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仕事中だとしたら申し訳ないなと思いながらも発信を押す。1回目、2回目とコール音が鳴るが出ない。先にメッセージで電話しても大丈夫か聞けばよかった、と思いながらも3コール目で応答があった。
「おっ、びっくりした。どうしたの?」
どこか外にいるのだろうか。信号機の音や、車が通る音などがナラムの声の奥から聞こえてくる。
「突然ごめんなさい。少し相談したいことがあって」
「なになに?」
「眞津藻さんのことなんだけど……」
「ああ、何かあったの?」
「えーと……あまり言いにくいんだけど……」
「よし、到着っと。トーナの部屋から外見てみて」
一瞬何を言っているのか理解できなかったが、冬凪は次の瞬間ハッとなり急いで窓際へと向かった。そこには変装をしているので見る人が見ないとわからない格好のナラムが、電話を耳に当てもう片方の手でこちらへ手を振っていた。
「改まった大事な話は直接話さないといけないなと思ってね。驚いた?」
「とっても驚いた!」
テレビではよく見るが、実際に会うのは久しぶりだ。わざわざ来てくれたことにとても嬉しく感じる。
「家族は誰もまだ帰ってきてないから普通に玄関からでいいよ、いま鍵あけるね」
「サンキュー! こちらこそ突然ですまんね」
玄関へ向かい鍵をあける。ドアを開けると、あの騒動からは初めて会うナラムが立っていた。何も変わらずとても元気そうだ。
「仕事終わった帰りで、ちょうど近くを通りかかる用事があったから驚かせようと思ったんだけど、まさかこのタイミングで電話がくるとは思わなかった。逆にこっちが驚いちゃったよ」
「ホントに凄い偶然だよね!」
やはりテレビで見るよりもカッコいいなぁと思うが見とれている場合ではない。
「とりあえず私の部屋で話そっか。こっちだよ」
「お邪魔しまーす」
「狭くて散らかってる家で申し訳ないけど……」
「いやいや、全然そんなことないよ。俺の実家よりキレイだ」
そんなやりとりをしながら2人は冬凪の部屋へと入った。
「前は窓からの侵入だったし、トーナを助けることしか考えてなかったからちゃんと見てなかったけど、きちんと整頓されてるし女の子らしくて可愛い部屋だよね」
ナラムが部屋に入ると全体を見渡した。冬凪の部屋のカラーは白とピンクと薄紫がメインで構成されている。多少の小物は置いてあるが、そこまでごちゃごちゃもしていない比較的シンプルな造りであった。
「なんか改まって言われると、とても恥ずかしいな……」
「ああ、そうだよね。ごめんごめん!」
少し慌てながらもテレビではあまり見ることのない、少しはにかむような笑顔を見せた。アイドルの時には見れない表情をされると、いつも以上にドキリとしてしまう。
「あ、そうだ、眞津藻さんがどうかしたの?」
わざと話題を変えるようなかたちでナラムが話しかけた。
「そうそう! えーと、その前に……眞津藻さんのことどう思ってる? 例えば恨んでて顔も見たくないとか!?」
「別にそんなふうには思ってないよ。謝罪の動画は見たから気持ちは伝わってきた。ただ、理由の部分は嘘をついてるだろうなとは思っているけど」
さすが当事者だけあって、眞津藻瑠々の演技力をもってしてもそのあたりは騙せなかったようだ。
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