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冬凪はその後も、なんとなく落ち着かない数日を過ごしながら、気が付けばダイパレと眞津藻瑠々が対面する約束の日になっていた。
眞津藻瑠々からは、自宅から店までタクシー使っていいから領収書貰っておいてと言われたが、ただの一般人の高校生がそんなことしていいのかという思いがあり、電車を乗り継いで向かうことにした。
(最近いきなり行動範囲が拡がったなぁ。初めて行くようなところばかりだ)
「あれ? トーナちゃん、こんなところでどうしたの?」
電車に乗り、座席に座りながら携帯電話を操作していると突如声をかけられた。冬凪は驚いて顔を上げると、そこには綺麗な大人の女性が笑顔で立っていた。
どこかであった気がするけど、どこだったかが思い出せない。
「あ、ごめんごめん。覚えてるわけないよね。オフ会にも来てた同じギルドのさりゅーさみです」
そんな悩んでいる冬凪の様子を察して、さりゅーさみは自分から自己紹介をした。
「あああ! そうだ、ごめんなさい!」
「思い出してくれた!? これでも思い出してくれなかったら悲しくて泣くところだったよ」
冗談っぽく笑いながら言った。
「さりゅーさみさんはこれからどこか行くんですか?」
「あっ、その名前呼びずらいっしょ。小百合でいいよ」
「本名なんですか?」
「そうそう、ゲーム名も微妙に本名をモジッたんだ。佐藤小百合って言うの」
少し恥ずかし気な表情を浮かべて答える佐藤小百合は年上ながらとても可愛く感じた。
「あ、そうそう、これからバイトに向かうところなの」
「へー! 何のアルバイトなんですか?」
「飲食店! 今度来て、って言いたいところだけど結構高い店なんだよねー」
「あら、それは残念です……」
話していると次の駅に間もなく到着のアナウンスが流れた。佐藤小百合は時計を見ながら「やばっ、もうこんな時間」と呟いた。
「私ここで降りるの、トーナちゃんはどこまで行くの?」
「えっ、私も次です」
「あら、偶然! じゃあまたゲームで! たまには一緒にあそぼ」
「是非!」
「慌ただしくてごめんね! バイトの時間がちょっとヤバくてね!」
そう言い、ドアが開くと同時に佐藤小百合は急ぎ気味に出て行った。
(もしナラムが私ではなく小百合さんに最初出会っていたらどうなっていたのかな。美人で性格も良さそうだし、話しやすいし……)
冬凪も電車から降り、大勢の人が行き交う駅のホームでふとそんな考えが浮かんでしまった。
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