第5話 好意と言う名の

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「冬凪ちゃん! 今日はありがとうね!」  部屋に入ると眞津藻瑠々が笑顔で出迎えた。 「あ、ダイパレの二人もいるよ。たまたま入り口で会って」  冬凪の後ろから覗き込むようにして二人は顔を出した。それを見るや否や眞津藻瑠々の表情が変わる。 「この度は! 私の身勝手で多大なるご迷惑をおかけしました! 特に來夢さんには謝っても謝りきれません! 本当に申し訳ありませんでした!」  そう言うと深々と頭を下げた。ナラムは突然の迫力ある謝罪に圧倒され驚いた表情をしている。  久遠は特に興味ないような、他人事といった表情でただ見つめていた。  まだ顔を上げない眞津藻瑠々に冬凪が最初に声をかけた。 「部外者の私が言うのもなんだけど……眞津藻さん、もう顔上げた方が……」  それを聞いてやっと顔を上げる。 「あ、そうですよね。部屋の入り口で失礼しました。どうぞ席に座ってください!」  ナラムと久遠は眞津藻瑠々に促され、椅子に並んで座った。テーブル席で対面の形となり、眞津藻瑠々と冬凪も並んで座る。 「今日はお越し頂きまして誠にありがとうございました」  眞津藻瑠々は今度は座った状態で頭を下げる。冬凪は同じ高校生とは思えないほどのしっかりとした場の振る舞いに内心感激していた。こういうのが人生経験の違いなのだろうかと思う。 「とりあえず喉かわいたし飲み物でも頼まない?」  やる気のない、この場にそぐわないような声のトーンで久遠がここに来て初めて声を出した。  しかしそれはアイドルではなく、プライベートの時の久遠のトーンだと冬凪はすぐに理解した。 「ちょ! 久遠!」  思わず冬凪は声を出してしまった。アイドルスイッチオンのまま話すと約束したはずだがこれでは約束が違う。  隣の眞津藻瑠々の方にちらりと目をやると、まだその異変には気付いてない様子だ。 「そうですね! 気が利かずごめんなさい!」  テーブルの上に置いてある呼び出しボタンを押す。すぐに佐藤小百合が部屋へとやってきた。 「ご注文ですか?」 「俺は生で」  真っ先に久遠が答えた。 「俺は……ウーロン茶で」 「私もウーロン茶お願いします」 「あ、私も」  ナラムのあとに眞津藻瑠々が注文し、冬凪もそれに続く。成人しているナラムはお酒でもいいのに気を使っているのかソフトドリンクだった。 「かしこまりました、少々お待ち下さい」  注文を聞き終わった佐藤小百合が部屋から出て行く。 「來夢さんはお酒飲まないんですか?」 「飲むことは飲むけど、そんなに強くないんだよね」  眞津藻瑠々の質問に笑って答える。 「で、今回の件、どう考えてるわけ」  久遠がナラムの笑いを遮るように静かに言い放った。素のやる気のない久遠というよりは、眞津藻瑠々に対しての敵意が感じられた。
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