第5話 好意と言う名の

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「失礼致します。お飲み物お持ち致しました」  ちょうどタイミング良く佐藤小百合がトレーに飲み物を乗せてやって来た。 「ありがとうございます!」  礼儀正しくハキハキと眞津藻瑠々が応えた。 「この後すぐ料理お持ちしてよろしいですか?」 「はい! 大丈夫です、お願いします!」  飲み物をテーブルの上に置くと、佐藤小百合は冬凪へウインクして部屋から出て行った。タイミング良くというよりは、話の区切りを狙って部屋に入って来たのかなと冬凪は思った。 「さて、乾杯しましょうか」 「眞津藻さん、何度も話を折ってすまんね」 「はい? どうしましたか?」  久遠が先程よりも少し柔らかい口調で話しかけた。今度は何を言おうとしているのか、冬凪の心は穏やかではなかった。 「全然思ってたのと違って、眞津藻さんがそこまで悪いやつじゃないっていうのはなんとなくわかった。けど、余計になんであんなことしたのかがわからなくて、先に教えてほしいかな」 「わかりました。もちろん言うつもりでした。本当の理由もお伝えしないと、納得して頂けないなというのは思ってましたので」  眞津藻瑠々は下を向いて大きく息を吐いた。顔を上げ真っ直ぐに久遠を見つめる。その瞳には確かな覚悟を感じた。 「私は久遠さんが好きです。もしよろしければお付き合いして下さい!」  元々理由を聞いていた冬凪だがまさかここで言うとは思わず、ナラムと二人でただ驚くことしかできなかった。久遠本人は特に表情を変えずに眞津藻瑠々をただ見つめている。 「それが理由?」 「はい。久遠さんが全然私に興味を示してくれなかったので……少しでも気を惹かせることができるかなと……。ダイパレの活動休止後にまた久遠さんに声をかける予定でした」 「なるほどね、普通そんな危険なこと思いつかないし、そもそもやろうと思わないし。安易な考えだったね」  そう言うと久遠は腕を組み少し俯きながら何かを考えているようだ。告白に対する返事の仕方なのか、それとは関係のないことなのか、表情からはまったく読み取ることができない。 「せっかくの告白、申し訳ないけど受けることはできない」  何か考えがまとまったのか、やっと口を開いたが、それは眞津藻瑠々にとっては悲しい結末だった。 「大丈夫です。そうだろうなと思ってましたから」  そう言う眞津藻瑠々の表情は笑顔だった。同じく彼女もその覚悟があっての告白だったのだろう。 「でもこれですっきりしました! もう料理も来ますし、乾杯して楽しみましょう!」 「こんな可愛い子の告白を断るなんて、ホント相方として申し訳ないわ。ごめんね、あとでこいつにはきつく言っておくから」 「あはは、ありがとうございます」  ナラムが相変わらず場の空気を明るくさせようと冗談っぽく話しかけた。 「それにしてもトーナ。さっきの口の悪いやる気のないゲームが好きのただの若者って、フォローになってないっていうか、ただの悪口じゃねーか」  口元に軽く笑みを浮かべながら久遠は言う。 「あー……なんか咄嗟に言葉が出てこなくて……。でもそれだけ親近感があるってことだから!」  冬凪は再度必死にフォローをしながらも、とりあえず良い方向に向かっていることにほっと胸を撫でおろした。
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