第6話 煌めく文化祭(前編)

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「ねえねえ、何か時間気にしているみたいだけど、用事?」 「あ、たいしたことではないんだけど、ちょっとね。また明日からまた頑張るから許して!」 「いや、そんなことはどうでもいいんだけど……んー、一見いつもの冬凪に見えるけど……抑えきれない何かを感じるんだよね……怪しい」  そう言うと冬凪の顔をじっくりと観察し始めた。 「ほんとに何もないから」  自分自身特に意識をしていないつもりで、至って普通の状態であると冬凪は思っていたが、まさか感づかれてしまうとは思わなかった。嘉島玲奈に対して驚きと同時に感心してしまう。 「今までこんなことなかったし……さてはもしかして……デート? いつの間にそんなに関係が進んでいたの!?」 「違うからー! えーと、風邪ひいたみたいで、食料とか届けないといけなくて」 「えっ、家に行くってこと!? それってデートよりやばいじゃん! 來夢さん?」 「うん、久遠に頼まれて」 「へー、なるほどなるほど。そう言うことか。親にはなんて言ったの?」 「特に何も言ってないけど。どうせ最近毎日9時ぐらいの帰宅だったから、今日に限ってわざわざ言うのも変かなって」 「いやいやいや違うでしょ!」  そう言うと嘉島玲奈は冬凪の至近距離まで近付いてきて、周りに聞こえないように小声で喋る。 「風邪ひいてる一人暮らしの男の家に行くってことは看病するってことだよね? そして明日は学校が休みです。ということは、答えは一つ! お泊りだよね?」 「……あ、え、そ、そういうものなの?」 「もちろん! 物を置いてバイバイとはならないでしょ?」 「でもそう言うのって付き合ってるからこそするのであって、付き合ってるわけでもない女がいきなり泊まる気満々だったらひかれない?」 「甘い! 付き合ってる、付き合ってないは関係ないよ。二人の関係性、二人の距離感の方が大切だから」  最初は小声だったはずが、気が付けば普通に雑談する程度のボリュームになっていた。  幸い周りは休憩を取り始めたらしく、飲み物など買いに行ったのだろうか。気が付けばクラスメートは教室にほとんどいなかった。 「と言うことで、もしもの時のアリバイ工作は協力するから遠慮なく言ってね」  笑顔で手を振りながら、嘉島玲奈も教室を出ていった。 (お泊りって……突然だし着替えも何も持ってきてないっていうか、そもそも制服だし。まさか……そんなことないよね)
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