第6話 煌めく文化祭(前編)

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 一応委員長の真島秀介には抜けることを伝えたかったが、他のクラスメートと一緒に休憩しているのか、教室からはいなくなっていた。  嘉島玲奈には伝えているから、まあ大丈夫かと教室を出ると、丁度タイミング良くこちらの方へ向かって歩いて来る真島秀介が見えた。 「あっ、真島君! ちょっと用事があって今日は帰ります」  声を掛けると少しだけ驚いた表情を浮かべた。 「わかったよー。おつかれー。……あっ、そうだ。そう言えば」  横を通り過ぎようとした冬凪は突如呼び止められた。挨拶やその他最低限の会話以外したことがなかったので少し驚いた。 「ん? どうしたの?」 「貞目さんってパソコン部なの?」 「あー、一応……。幽霊部員なので今までで数えるぐらいしか行ってないけど」 「なるほどね。噂で聞いたけど、今回文化祭でシャフトバルバリーのイベントやるんでしょ?」 「えっ、もしかしてシャフトバルバリーやってるの?」 「そうなんだよね。結構好きで、割とやり込んでる方かも。貞目さんもやってるの?」  こんな身近なところにもプレイヤーがいたとは驚きである。知名度のあるゲームだとこういうことが頻繁に起こるんだなぁと思った。 「私も結構やり込んでる方かな。でもランキングとかには全然入らないけどね」 「へー、そうなんだ。今度機会があれば一緒にやろう」 「いいよ! 今度ゲームID教えるね!」  軽く手を振りその場から離れた。真島秀介も笑顔で手を振っていた。 (さて、まったく行き方とか調べてなかったけどすぐに行けるものなのかなぁ)  学校から出ると最近活用する機会の多い地図検索アプリを開く。ナラムの家に行くということに頭がいっぱいで、行き方はあまり深く考えていなかったが、ここで初めて思っていたより相当遠いことがわかった。 (まいったなぁ。バスと電車を何回乗り継げばいいんだろう)  覚悟を決めて歩き出そうとした時、冬凪のすぐ横の車道に黒塗りの車が停まった。 「貞目様ですね? どうぞお乗りください。眞津藻様からのご依頼でお迎えに上がりました」  まさか自分が声を掛けられるとは思わず一瞬立ち尽くしてしまったが、眞津藻の名前が出たことで、少し繋がった気がする。  恐らく久遠は眞津藻瑠々に言われてメッセージを送ってきたのだろう。いきなり珍しいなと思っていたがそれなら納得だ。 (眞津藻さんは本当に凄いなぁ。やることが早いし色々なところに気が付くし。同い年とは思えない) 「では……すいません。お言葉に甘えます」  車に乗り込むと、内装も外観通りというか、社長や政治家が乗っていそうな、いかにもな高級な車だなと思った。 「すいません、途中買い物したくて、コンビニでよいので寄ってもらえますか?」 「かしこまりました」  車は冬凪を乗せてゆっくりと発進した。
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