第6話 煌めく文化祭(前編)

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 途中のコンビニにてスポーツドリンクやゼリーなどすぐに食べれるものを中心に色々かごへと入れる。ナラムの症状がどれぐらい酷いのかがわからないので、いまいち何を買えばいいのか思いつかない。  そして今更だが、ナラムの好きな食べ物を知らないことに冬凪は気付いた。 (そういう日常的な話しとか全然しないからなぁ。そう言えばダイパレだと知る前はゲーム内チャットで雑談とかはよくしてたけど最近してなかったな) 「すいません、お待たせしました」 「いえいえ、では参りますね」  買い物を済ませて車に乗り込む。車はショッピング街やオフィスビル街などいくつかの街を抜けていく。思っていたよりも相当遠い。自力で来るとすれば、かなり遅い時間になってお見舞いに行くには逆に迷惑な人みたいになっていたかもしれないと思った。 「到着しました」 「本当に助かりました! ありがとうございます!」  いかにも高級なタワーマンションの前で車は停まった。やはりというか、当然だよなぁと思う。逆に天下のダイパレが普通のマンションの方が驚く。  正面入り口から入ると、眞津藻瑠々の時と同じくインターフォンが設置してあり、それを操作することで各部屋へと繋がる仕組みだ。セキュリティはばっちりだ。  久遠からのメッセージを見返し、部屋番号を確認しインターフォンを鳴らした。  1回目鳴らしたが応答はなかった。もう一度押してみるが再度応答はない。かなり体調が悪く動けないのか、単純に寝ているのか。  ここまで来て会えないというパターンは考えていなかった。 (どうしよう……とりあえず久遠の方にメッセージ送ってみようかな)  その場で携帯電話を操作していると、外側の自動ドアが開く音がした。住人の誰かが帰ってきたのだろうと思い、冬凪は横の方にずれた。 「あれ……? トーナじゃん! え、いきなりどうしたの?」  突如呼びかけられたことで驚きながらも顔を上げると、そこにはパーカーのフードを深く被りマスクをしたナラムの姿があった。買い物袋を手にぶら下げている。 「え、体調……だ、大丈夫な……の?」 「あー、まあ大丈夫だよ。もしかして久遠に言われた?」 「ナラムが全然動けないみたいな感じのメッセージだったから心配で……」 「あいつ余計なことして……本当にごめんね」  眞津藻瑠々も絡んでいるはずだが、そこはあえて伏せておくことにした。 「あ、一応これ、何が好きかわからなかったから嫌いなものがあったらごめんね」  冬凪が買ったものを差し出すと、ナラムは嬉しそうに受け取る。 「ありがとう。こんなところまで疲れたよね。何もないところだけどうちで休憩していきなよ」  寝たきり状態なら家に入る理由もあるが、普通に動けるなら中に入る理由もないし帰ろうかなと思っていた冬凪に、ナラムの方から声をかけた。 「私が入っても大丈夫なの?」 「全然大丈夫だよ、どうぞどうぞ」  そう言うとナラムはインターフォンのタッチパネルを操作する。すぐに建物の中へ入る方の自動ドアが開いた。
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