第6話 煌めく文化祭(前編)

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 エレベーターホールは案外普通で、一般的なマンションとほとんど変わらない感じだ。セキュリティーやその他施設などがあった分、眞津藻瑠々の家の方が家賃は高いのかもしれないなと思った。  エレベーターのボタンを押すとすぐに1階まで降りてきたドアが開いた。 「ここまで来るの大変だったんじゃないの?」 「あー、うん。思ってたより遠かったかな」  実際は送ってもらったので大変ではなかったわけだが、とりあえず嘘は言ってない。 「最近はナラムはそんなに仕事なかったの?」 「そうなんだよね。って言っても、もう少ししたらまた忙しくなるんだけどね」  エレベーターが停まりナラムが降りたのでそれについていく。 (あー、緊張してきた。ホントに入ってもいいんだよね!?) 「どうぞ入って、男の一人暮らしだから汚いのは勘弁!」  ナラムが笑いながらそう言うと、玄関ドアを開けて冬凪に中へ入るよう促す。 「ではお言葉に甘えまして……お邪魔しまーす」  中へ入ると玄関は綺麗に整頓されていた。廊下を通り居間のドアを開けると、汚いという言葉とは無縁の片付いた部屋が現れた。 「全然汚くない……というかキレイだ……」 「まあ、部屋はね。台所はやばいよ」  独立した対面式のキッチンがあり、のぞき込んでみるが、たしかにこの部屋からは想像できない程汚れていた。使用済みの食器類がシンク内に溜まっていたり、何かの料理をした跡がそのままになっている。  やっと生活感を感じられる光景を見ることができ冬凪はむしろ安心した。 「へー! ナラムって結構自炊するんだね!」 「自炊って言っても簡単な調理だよ。外食はあんまり好きじゃないんだ」  ナラムは照れたような表情を浮かべた。しかしここでナラムの額から汗が流れていることに気付いた。よく見ると顔色も少し赤い気がする。 「えっ……もしかして今も熱あるの?」 「あー、多分ないと思う……」 「怪しい……熱測ってみて」  しぶしぶと言った感じでナラムは体温計を取り出して測りだすが、測り終わって見てみると38,2℃が表示されていた。 「めちゃくちゃ熱あるじゃん……」 「ははは、嘘ついてごめん。これでも少し動けるようになったから動けるうちに買い物してこようと思って、それで帰ってきたらトーナがいたからつい……」  ナラムは申し訳なさそうな表情を浮かべる。 「全然気にしないで。食べれるうちに何か食べて寝てて! あと手伝えることあれば気軽に言ってね。私はせっかくここまで来たわけだしキッチンでも片付けてるかな」 「え! いやいや! わざわざ来てくれて家事なんていいから!」 「いつもお世話になってるので、そのお礼です。私のことは気にしない気にしない」  ナラムを居間のソファーに座らせ。お互いに買ってきたものをテーブルの上に並べた。 「これらは今食べるの? 冷蔵庫に入れちゃっていいの?」 「あ、じゃあ冷蔵庫に入れておいて。ありがとう」  またキッチンまで戻り冷蔵庫に物を入れると、使用済みの食器類を目の前にして冬凪は気合を入れた。
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