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「全部やる必要ないからね! 適当に切り上げてくれていいから!」
ナラムが居間のソファーに座りながら冬凪へと話しかけた。
「大丈夫! きりのいいところでやめるから気にしないで寝てて! あっ、ご飯食べ終わったら薬飲み忘れないでね」
「うん、ありがとう」
そのまま洗い物を続けていると、ナラムが居間の隣にある部屋に歩いていく姿が見えた。やっと寝室に行ってくれたようで安心した。
(あとはここを綺麗にしておけば、ナラムが元気になって食欲が出てきてもすぐに料理できるしね)
綺麗になっていくキッチンを見るのはとても気持ちが良い。
シンクにあった食器類はすべて洗い、さらに食器棚へとしまい終えた。時計を見ると、やり始めてから1時間ほど経っていることに気付いた。すでに21時を過ぎていた。
それと同時に集中し過ぎてナラムの様子を見に行くことをすっかり忘れてしまっていた。というよりは実際、体を動かしていないと手持ち無沙汰になり、いつまで経っても緊張がほぐれないから無理矢理集中していたと言ったほうが正しいかもしれない。おかげで冬凪の緊張はだいぶほぐれていた。
寝室にいるナラムの様子を、なるべく物音をたてないよう気を付けながら見に行く。入り口から覗き込むと寝息が聞こえてきた。完全に眠っているようだった。
熱が下がったのか気になり、心の中で『勝手に部屋に入ってごめんなさい!』と言いながらも、こっそりと近付きおでこに手を置いてみる。先程よりはなさそうなので、まずは一安心だがそれでもまだ熱は下がりきっていない。
そろそろ帰らないと時間もやばくなってくるが、せっかく寝ているのに起こすのは申し訳ない。そんなことを思っていると学校での嘉島玲奈のセリフが頭をよぎった。
『お泊りだよね?』
『もしもの時のアリバイ工作は協力するから』
まさか本当にこんな展開になるとは。
(でも鍵ももってないし、わざわざ起こすわけにはいかないし、仕方ないよね!)
言い聞かせるように思いながら、今日は泊まる決心をして、居間へと戻り親にメッセージを送った。
『最後の仕上げで友達の家に集まってお化け屋敷の小道具作りするから今日は泊まるね』
これで家はもう大丈夫だ。あとはナラムが早く良くなることを祈るだけだ。
しかしこの状況、ダイパレのファンからは怒られるだけじゃ済まされないだろうなと思う。するわけがないが、SNSに画像でもあげようものなら大炎上だろう。改めてナラムから信用されているということで嬉しく思う。
やっと少し精神的に余裕ができ、ふと窓から外を覗くと、高層階ということで景色がとても綺麗なことに気付いた。冬凪はベランダに出て夜風を浴びながら、しばらくその景色を楽しんだ。
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