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ジレンマ
「いたたた……」
小春が腹を押さえて、苦しがっていた。
「どうした?! 」
俺は焦っておろおろした。
すると小春は笑って言った。
「大丈夫。またこの子が思い切りお腹を蹴るもんだから……いてて……」
ここ最近胎動が多くていつもそんな事になっている。
「早く出てきたいのかな? 」
「ね! やっぱり男の子だから活発なんじゃない? 」
そうなのだ、性別が解ったのだ。エコーの時に男子のシンボルがはっきりと見えたのでそれで確定した。
「名前もう決まってるんだよね。教えてよ」
「まだ内緒。産まれてから発表することに決めてるんだ」
「もう! もったいぶっちゃって。あー、気になるな」
小春はベッドに一緒に座っていたが、俺の脚に頭を乗せて寝転んだ。
俺はいつものようにその髪をさらさらと撫でる。
「苦労かけるな」
「ううん。産休入ったらとても楽になったよ。この時期、時間に縛られないのはありがたいよ。いろんな事が余裕を持って出来るもの。母さんにも早めに来てもらって本当に良かった。あたし一人だったら家のなかがヤバいことになってたよ」
そう言って小春はにっと笑った。
お産の時は、義母さんもいるし義父さん、義妹さんも駆けつけてくれるらしいから、俺がいなくても心配なさそうだ。
「安産になるといいね」
俺は特大のスイカみたいに膨らんだお腹を丁寧に撫でた。
今動いた!
不思議な感覚だなあ。
俺はそう思いながら、動いたところをずっと擦っていた。
「あっ、そうだ」
俺はベッドの隣に備え付けてあるクローゼットの引き出しを開けて、ごそごそとあるものを取り出した。
「これお守り」
安産のお守りを小春に渡した。
キラキラした赤い刺繍が施されてるオーソドックスな形のものだ。
実は家の近くに安産祈願にご利益のある神社があったのを思い出し、高橋くんにお願いして購入してもらっていたのだった。
「ありがとう! 」
その嬉しそうな顔に癒された。
「もうすぐで本当に産まれてくるんだね……」
そう言って俺の横でお守りを上にかざして眺めている。
そんなふとした瞬間とても愛しくなり小春を抱きよせた。
彼女はそのまま俺の腕に手をかけ寄りかかってくる。
ああ、愛し合いたい……
けどいろんな出来事が重なりすぎてるから当分出来なくて、歯がゆい。
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