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これからもずっと
照太が5歳になった年。
俺達はすっかり秋田の生活に慣れて、今更東京に戻る気はすっかりと無くなってた。
不便なことはあまりない。
福祉は充実してるし、スーパーや大型量販店もどんどん進出してきてるから、生活には困らない。自然もたくさんあるし土地も広い。
もともと人混みの苦手だった俺と小春は、逆に東京に戻って上手くやっていけるか心配だった。
そんなある日、高橋くんから電話があった。
「久しぶり! 元気だったか? 」
「おー! 久しぶり。どうしたの? 」
「今から1ヶ月先の話になるんだけど……仕事で4連休が取れてさ。秋田に遊びに行くから、一緒にキャンプでもしないか? 」
「やったー! 本当に?! わかった、絶対しようね」
俺は年甲斐もなくはしゃいだ。
◇◇◇
そして1か月後……
俺は東北自動車道を北へ進み、安田と待ち合わせの場所で高速を降りた。
黒いワンボックスカーから、安田達が降りてくる。
「久しぶりだねー! 運転お疲れ様。長かったでしょ」
「元気だったか? 変わらないなー、お前」
「高橋くんも、あの頃のまんま! 」
俺達は念願だった再会を喜んだ。
近くの大型スーパーで食料、飲み物を買って、目的地のキャンプ場に向かった。
照太は先陣を切って、あっという間に遠くに走っていき、うちらが予約していたコテージに真っ先に向かっていた。
その後ろを俺と菜乃花が付いていく。
言葉を覚えたての菜乃花は、照太に待ってくれとせがむ。
その後に小春さんが続く。
安田がそれを追いかける。ちょっとしんどそうだ。
美智子は最後尾で、もう息があがっているようだった。おそらくこの中で一番運動不足なんじゃないだろうか。
バーベキューを楽しみ、腹が落ち着いてみなまったりとした時間を過ごしていた。
コテージの中では母と子供達がトランプを楽しんだり、怖い話をしたりして盛り上がっていた。
俺と安田は外で2人きり、キャンプ用の椅子にもたれかかって話をした。
星がとてもよく見える。こんなに綺麗な夜空は東京じゃお目にかかれない。
風に運ばれてきて、バーベキューの後の炭火の残り香と土の香りが鼻をくすぐる。
草むらからは虫の声がとめどなく聞こえてくる。
こんな落ちついた空間にいると、安田が秋田からなかなか離れない理由がわかる気がする……
「なあ、安田」
「ん? 」
「覚えてる? 初めて会った時のこと」
「うん。俺の中では一番の思い出だよ。初めて高橋くんが家に来た日、俺はすごくワクワクしたんだ。大袈裟じゃないよ、これ。人生が一気に楽しくなった」
俺は嬉しくて思わず照れ笑いした。
「俺もだよ。お前といると心底癒されて、不思議とお前んちに足を運んでた。飯も超うまかったしな……」
俺はおもむろにクーラーボックスからビールとジンジャーエールを取り出した。
2人でそれを手にすると、蓋を開けた。
「再会を祝して、乾杯! 」
そう言って、あの時のことを思い出しながら瓶と瓶をぶつけた。
「安田……俺よりも先に死ぬなよ」
「高橋くんもだよ……絶対だよ」
そこまで言うとお互い目を合わせてにこりと笑った。
「またこうやってちょくちょく遊びに来るから、お前もたまには東京に戻ってこいよ」
「うん。必ず……約束」
何処にいても安田は安田。
何処にいても高橋くんは高橋くん。
出会ってから、お互い本当に様々な出来事があって……
その度にいつも側にいて、支えてくれた。
まるで
お前は
君は
俺の一部だ。
どうぞ
これからもよろしく。
――――――――――――――
「もぉー! まだこんなとこにいるぅー! 風邪引いちゃうよっ! 早く温泉入ってきなよ」
美智子にそう急かされて俺達はゆっくりと腰をあげた。
そしてこのキャンプ場に備え付けられている大浴場に向かった。
「照太、おいで」
洗い場を歩き回る照太を呼び、三人で湯に浸かった。
「あーっ! 生き返る……サイコー! 」
温泉なんて何年ぶりだろう。
楽しいことだらけで、今日は夜が長くなりそうだ。
安田よ。
俺はお前と共にある。
どんなに月日が流れても――――――――
これからもずっとそれは変わらない。
【了】
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