そして

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「……え? 」 青天の霹靂(へきれき)だった。 俺は暫く固まったが、安田は続けた。 「ここから離れて、秋田に永住しようと思う」 「何で急に? 」 少しためてから安田は答えた。 「うん……ばあちゃんのことと、これからの照太のことを色々と考えて……そうすることにした」 俺はあまりにも突然すぎる告白に動揺を隠せなかった。 「詳しく教えて」 いいところを邪魔されて、(ふく)れっ面してる美智子を横目にそれどころではないと俺は話を聞いた。 「前秋田に行った時、ばあちゃんが入所してる老人ホームの人から聞いたんだ。 ばあちゃんの今後について。 今のところ、入所しているにあたって毎月かかるお金は、ばあちゃんの貯金と年金で、何とか払えてる。 でも、俺以外に身寄りがいないもんだから、心許(こころもと)ないんだ。 行政の人からも言われてる。 もし亡くなってしまったら、近くに頼れる親類はいないから、俺に連絡が入る。だから俺が葬儀関係や相続のことなんかを全て執り行わなければいけない。 もし俺がそれをしないのであれば、ばあちゃんは1人ひっそりと火葬されてお墓に埋葬もされなくなってしまう。誰かがばあちゃんの最後を見届けて、無事墓に眠るのを手伝ってあげないと可哀想だ。 あと、ばあちゃんの住んでた家もこのままだと取り壊さないといけないみたいで…… 今は誰も人が住んでないから屋根の雪かきが出来なくて、もう少し年月が経ったら崩れてしまうかもって言われた。基礎もしっかりしているし畳とかもまだ綺麗で正直もったいないって。 だから、もし良ければ秋田に移住してそこに住んでみないかって言われた…… だから色々と考えてみて、小春ともずっと相談してきて、ばあちゃんの家に住むことにしたんだ。 ばあちゃんが亡くなって、身の周りの整理が終わるまで一時的に……とも思ったんだけど、それがいつになるかはわからないから。 そして照太のために……っていうのもある。 何回も転校して、いつも友達と離れ離れになるってことをあまりさせたくないから、どうせならずっと住むことにした」 俺は気が付くと涙ぐんでそれを黙って聞いていた。 「小春さんもOKしたんだ……」 「うん。かなり雪が降って、雪掻き大変だよって念を押したんだけど、それは実家と全く一緒だからどうってことない、慣れてるって笑ってたよ。 それに、給料はこっちよりもずっと安いかもしれないけれど、向こうは福祉関係の仕事の需要がかなり多いらしいから、何とかやっていけるんじゃないかな。物価も何かと安いしね。 俺の、前の病気の定期検診も紹介状を書いてもらったら向こうの病院で出来るみたいだし…… ここに残っていて、ばあちゃんが亡くなってから慌ただしくするよりも、最初から向こうに住んでいて少しづつ身辺整理した方がいいのかなって…… まあ、いずれにしろまだまだ先の話だし…… 今こっちで処理しなきゃいけないことは山ほどあるから。 一番最初に高橋くんに知らせようと思ったんだ。 ごめんね、長々と話し込んじゃって。じゃあまたね。近いうち、会おう」 「おう……まずはわかった。じゃあ後でまた、詳しく……」 俺は電話を切って力無く椅子にへたり込んだ。ずっとそうしてると、 「ねぇ! 」 美智子が声をかけてきた。 「安田達が秋田に引っ越すって……」 「ええ?! 」 美智子も驚いていた。 安田家とは今まで家族ぐるみで付き合ってきたから、こいつにとっても相当ショックなようだ。 「小春ちゃん……秋田ってここからめっちゃ遠いじゃん……」 俺と安田がつるんでるように、美智子と小春さんも互いに友情を深め合っていたようだ。 2人で暫く椅子に座って(ほう)けた。 心にぽっかりと大きな穴が空いた。
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