十九歳の夏

2/6
前へ
/6ページ
次へ
栄養失調のフクロウみたいな顔をしたキャッチにつれられて入ったキャバクラで小学生の時の友達と同じ名前の女に出会った。  源氏名なのだから確実に別人なのだが本人だと思い込むことにした。 「今日は一人で飲んでいたんですか?」 「うん。それで、この店のお兄さんに連れてこられた」 「そうなんだー。二件目?」 「うん。そう」  女の顔を改めて見る。似ている気がする、と思い込ませる。店内には知らない曲が流れている。 「はい、どうぞ」  渡された水割りを受け取る。「私も飲んでいいですか?」と訊かれたので頷く。乾杯をして、一口飲む。ほとんど水だった。  中身のない会話をして、味気のないハグをされ、焼酎の香りがする液体を飲んで飲まされて二時間が経った。女は一度も変えなかった。三万七千円を払って店を出た。すぐに次のキャッチがやってきたが無視をして駅へ向かった。キャッチは改札を通るまでついてきて、「また、今度お願いします」と深いお辞儀をしてきた。  電車に揺られながら女のことを思い返す。彼女はエリカではないが、あの店で過ごした二時間は僕にとってはエリカだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加