十九歳の夏

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 アナウンスが降りる駅の名を告げた。電車が速度を下げ、停車し、ドアが開く。ゆっくりと立ち上がりノロノロと歩き下車する。 『お互い二十歳になったときの三月の最後の日曜日の夕方五時に小学校の校門の前で待ち合わせて、お酒飲みに行こうよ』  小学校の卒業式終わり、エリカが言った。 『いいけど、なんでその日なんだよ』 『平日だと仕事とか予定があるかもしれないじゃん。月末の日曜日だと就職したにしても、大学生でアルバイトだとしてもお給料入ってるはずだし』 『そんな先の約束覚えてるかどうかわかんないぞ』 『毎年、後何年って連絡してあげるよ』 『わかった。それならよろしく』 『よろしくね』 『はいよ。お前も向こうでもがんばれよ』 『そっちもね。暇なとき連絡ちょうだい。遊びに戻るから』 『結構な距離だぞ。お前の転校先からここまで』 『せいぜい百キロくらいでしょ。相撲取りなら軽いよ』 『距離と重さを一緒にするなよ』 『でも、宇宙までの距離も百キロくらいなんだって。そう考えたら遠いようで近いよね』 『さっきからなに言ってんだ?』 『まあ、とにかく。八年後の約束忘れないでよ』エリカが笑った。僕も笑い返した。
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