十九歳の夏

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 そして二十歳になった僕は来るはずのないエリカを待ち続けた。その翌年、さらに翌年と、絶対に来ないとわかっているのに小学校の校門の前で待った。そんなことを繰り返しているうちに当初の約束の日から五年が経ち、二十五歳になった。  小さく舌打ちをし、ため息をこぼす。駅を出ると、腐ったメロンみたいな三日月が夜空に浮かんでいた。  自宅に戻ると日付が変わっていた。僕は途中にコンビニで買った缶ビールを飲みながらアテにツナ缶を食べた。 『ツナってなんでツナっていうか知ってる?』  給食の時間にシーチキンサラダを食べているとエリカが言った。 『知らない』 『昔、マグロを取るときは綱を使っていたかららしいよ。今みたいに細くて強い釣り糸がないから、それくらい釣り糸が太くないと切れちゃうからさ』 『どうせ嘘だろ?』 『嘘だよ。冬が旬だから夏を逆さまによんでツナなんだよ』 『それも嘘だろ?』 『嘘だよ』 『お前、嘘みたいに嘘つくな』 『本当のこと言ってもおもしろくないじゃん』 『嘘つきは嫌われるぞ』 『じゃあ、私のこと嫌いなの?』 『うるせえよ』声がみっともなく裏返った。誰かが『また夫婦漫才が始まった』と笑った。
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