十九歳の夏

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 テレビの向こうでは知らない洋画が放送されている。冴えない男が可愛らしい少女と喫茶店で雨宿りをしていた。 『洋画って字幕で観る? 吹き替えで観る?』  二人で映画を観た後、フードコートで食事をしているとき、エリカが訊ねてきた。 『洋画は観たことない。てか、観ない』 『なんで?』 『つまんないから』 『中身がつまってない映画なんてこの世にないよ』 『なんで? 内容が空っぽの作品って言葉あるじゃん』 『それは観た人の感性が空っぽだからそう思ってるだけだよ』 『なんかそれっぽいこと言うじゃん』 『でも、あの映画は内容空っぽだったけどね』 『じゃあ、お前も感性空っぽじゃんかよ』 『そうだよ。だから、これから私の感性は育ち、色づき、実をつけていくんだよ』 『なんだよそれ』と言った瞬間、思わず笑ってしまった。 『もしかしたら、こういう会話だって傍からみたらコメディかもしれないよ。どこかで誰かが聞いていて、笑ってるかもしれないよ』 『知らない誰かを笑わせるつもりで会話してねえよ』 『意外とそういうのがおもしろかったりするんだよ、きっと』 『本当かよ』 『そのうちわかるよ。きっと』エリカが笑った。
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