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冷泉の静かで低い声には、まだ緊張が走ってしまう旭。
「いやっ、何か……お話があるのかと……私、早々に部屋を出てしまって……」
冷泉は、一瞬目を見張った。が、旭の顔は俯いてゆくもので、冷泉の反応は瞳に映せず。其れでも、声を続ける。
「貴方の仰る通りです……東西友好の証として、私の元へいらっしゃった貴方へ、気遣いが欠けて居りました……なので、申し訳無いと……」
冷泉は、又沈黙。と言うより、あまりに意表を突かれて声が出ずにいたから。だが、項垂れる旭の頭を見詰め、ほんの少し緩む冷泉の口元。
「いいえ。皇子はお優しいですよ。結局は、私の望みを叶えて下さるのですから」
「えっ……」
優しい。旭は、冷泉から出た容姿以外の誉め言葉に驚き顔を上げた。そんな反応をする旭へ、冷泉は吹き出しそうになるのを堪えて。
「お話もお部屋でと私が願うと、お部屋へ。共に楽を奏でたいと申せば、笛を取りに向かって下さった」
「あ、あれは……」
恐ろしかったからだ。が、口にする勇気も無い。旭は、苦笑いで誤魔化す。
「皇子。我等が巡り会うた時は、動き出したばかりです……少しずつ、私の事も御理解頂ければと思うて居ります。勿論、皇子の事も知る事が出来たらばと」
冷泉から出た前向きな言葉と、微笑みに旭は一瞬時を忘れた。厳格で鋭い瞳が、とても優しく見えて。
「え、ええと……はい、あの……又、お話を致しましょう……」
何故か顔が熱くて、背ける様に俯いてしまった。そんな旭へ冷泉は、静かに手をついて頭を下げる。
「はい。では、お休みなさいませ」
そう告げると、昨日と同じく身を外側へ向け布団へ入ってくれた冷泉。旭も、同じく布団へ。此の夜の旭には、冷泉への恐怖と警戒が無かった。
まだまだ夫夫とは言い難い。だが其れでも、ほんの少し二人の距離は縮まった。のかも知れない。
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