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「確かに。嚆矢ならば、東宮御所でも見知って居りますし……冷泉も、多少馴染みあるかと」
哀しきかな。やはり、百合へ指摘された弱点は中々修正が利かぬ様子である。
佳宵も旭の意見へ、肯定を示す。
「そうだな。後宮の護衛を何度か任せてみたが、皐月の印象も良い。お前の護衛は、後宮の護衛管理も担うのでな……では、此のまま決定で異論無いな」
「は……」
と、旭の一声により決定した此の事案。父との会議後、東宮御所へと戻った旭。先ずは、改めて白刃へ此の決定を己の口より告げた。白刃は、旭の厚い信頼を心より感謝し、旭の為に更なる精進を重ねると強く誓うのだった。そして、其の相方へ嚆矢が選ばれるだろう事も。
すると。
「――彼の優秀さは、私も多く耳にして居ります。帝となられる皇子様の護衛には、適任かと」
白刃からも、嚆矢の抜擢は納得のいくものの様だ。此れより長きに渡り、信頼関係も築かねばならない相手だ。其の相手へ、不満が無いのは何よりだ。
「そ、そうか……」
が。旭の反応は複雑。当の白刃も推すのだから、益々本音は吐き出しにくくなった。白刃は、そんな旭へ違和感から口を開く。
「皇子様。嚆矢が、何か……?」
「いや、別に。後宮へも行って来るよ……」
努めて笑みを浮かべながらも、力無く答える旭。付き合いも長い白刃は、何となく旭の心中を察した様であった。見送りに腰を上げる前に、白刃は旭へ改まる。
「皇子様。ひとつ、お耳に」
突如改まった白刃へ、旭が眼を丸くさせた。
「どうかしたのか?」
「嚆矢と東宮妃様に関する御心配ならば、無用に御座いますよ」
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