やって来た東宮妃。

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 何があろうと無かろうと。婚儀は、滞りなく行われた。共に天へ誓いを捧げ、血判入りの婚姻証書を仕上げる。其れは二通仕上げ、双方の國が管理する事となるのだ。此れで、二人は名実共に伴侶と認められたことに。明日は、民への挨拶と御披露目だ。冷泉は、明日より東の装いで其れに臨み、東皇家の者を全て揃えた酒宴にも出席と慌ただしくなる。旅の疲れもあるだろうと、婚儀を済ませた冷泉は部屋にて休息を促されたのだった。  其の合間。時の余裕が出来た旭も又、父の元へ。 「――父上っ。思うて居ったのと、全く違う御方に御座いますっ!む、無理です……!后等とは勿論、友となれるかすら不安ですっ!」  父の御前にて、そう吐き出した旭は頭を抱え遂に突っ伏してしまった。息子の酷い嘆き振りに、思わず上より腰を上げ駆け寄る佳宵。 「お、落ち着かぬか、旭……っ」  慰めの言葉も見付からぬままに、佳宵は我が子を抱き起こす様に支えてやる。 「全然違う……処か、じゃない方が来た……此れが現実なのか……私のくじ運とは、此れなのか……嫁くじ失敗……」  そう呟く愛息の瞳は涙で潤み、虚ろであった。佳宵には只肩を抱いてやる以外、成す術無く。今はっきり分かる事は、完全に旭の心が折れていると。 「あ、案ずるなっ。其の内、良い側室に巡り会えようっ!子等も気にするな。私はお前が心豊かで居れるなら、其れが男でも女でも構わぬ!」  父の懸命な激励。しかし。 「いや……私如きが不貞等したら、何か……縛り上げられそうで……」  何を想像したのか、青ざめ震え出した旭を佳宵は強く其の肩を抱いて。 「しっ、確りせぬかっ、お前が亭主なのだぞっ……!負けてはならぬ。何より、お前も良い男なのだからなっ!」
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