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「大人しくなさいませ」
低く静かに出た、強い声。旭は、冷泉へ掴み掛かった手を離す。
「は、はい……も、申し訳、御座いませ……」
庭より廊下へ。途中擦れ違った侍女等は、旭を抱いて歩みを進める冷泉へ拝をしつつ頬を染め、羨ましげに眺める様子が。白刃も勿論、冷泉へ抱えられ戻って来た旭へ驚いた。しかし、旭の顔色に状況を把握すると直ちに床へと促した。其の時は、熱が出たかの様に真っ赤でもあったので。
旭の身は冷泉により静かに床へと下ろされた。布団へ落ち着くも、上半身は起こした旭。冷泉も傍らへ控えるが、暫く沈黙したまま。
「皇子。貴方は、私へどう振る舞えと申すのです」
其れは、静かに問われた。こうして落ち着き、改めて問われると旭の先程迄の感情も波が引いて行く。
「え、っと……ですから、其の……私へ示す敬意や義務を重んじる御姿は、痛い程伝わっております……其れが、冷泉殿は、少々過ぎて居られるかと……」
最早勢いも無く、俯く顔は耳迄熱くなってしまう旭。しかし、出たのはやはり本音だ。冷泉へ、必要以上に踏み込まれたくない。今でも、感情をかき乱されるのだから。此れに怯え、警戒している己が居るのだと。
又沈黙。しかし、次に冷泉が開いた口から出たのは。
「西の男へ其れを言わせるか……そなたは真に無粋だ。更に、趣も雅も心得て居らぬとは」
強く、確りと断言された。驚きに顔を上げた旭は、何とも言えぬ間の抜けた面となっていた。冷泉の口調が、心成しか変わった様なと。
「えっ、あの……れ、冷泉ど――」
顔を上げた旭は、其処で言葉を止める。鋭い眼差しを向けられて、素直に怯えてしまったのだ。再び下がる顔。
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