東宮妃の秘密。

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 あれから旭は、再び発熱。直ちに薬の処方がなされ大事に至らぬも、其のまま眠りこけてしまった。何故熱が振り返したのかと複雑な表情で診察する御殿医へ、多くは語らぬ冷泉だが、旭が庭へ出た事のみを報告。御殿医は、突然動いた事が負担であった可能性を話し、次に目覚めても床より決して出ぬ様に旭へ伝えて欲しいと釘を刺したのだった。  そんなこんながあって一夜明けた東の御所。先に目覚めた冷泉は、眠る旭を只見詰めていた。伸ばした腕、其の額へ触れ熱も引いていると安堵の息。ふと、目を向けてしまうは旭の唇。穏やかな寝息が、其処より規則的に聞こえてくる。昨日、思いを抑えられずに触れた記憶はまだ鮮明で。そして、旭が告げてくれた言葉も。  冷泉は、旭の額を優しく撫でながら顔を近付けて。 「旭……」  額へ落とした唇と、何とも優しい声。其の声が届いたのか否か。 「んぅ………」  小さく聞こえた声が。ぼんやりと開いてゆく、旭の瞼。瞳に映ったのは、勿論冷泉の顔で。 「えっ……?!」  又、昨日と同じく慌てて身を起こそうとする旭の肩を抑えた冷泉により、布団へ沈む旭の身。 「ですから、突然勢い付けてはなりませぬ」 「か、重ね重ね、面目無い……」  目覚めて直ぐ側に冷泉の顔があった事へ、旭の心の臓はまだ落ち着かず。そんな旭の言葉へ。 「其れより、昨日の御無礼を御許し下さい」  旭より身を離した冷泉が、頭を下げたのだ。昨日と言われた旭は、其れを思い出してしまう。顔は熱く火照るばかりだ。 「い、いえっ。そんな……私、私が――」 「皇子様、東宮妃様。御早う御座います。膳を御持ち致しました」
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