東宮妃の秘密。

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 旭の言葉を遮ったのは、御所へ仕える侍女の声であった。此れを機に、我に返った双方共に妙な空気間へ。旭は熱い顔を俯け背け、冷泉は此れに肩を落とし深い溜め息。立ち上がった冷泉が、襖へ向かった。僅かに襖を開き、侍女へ会釈。 「今しがた、皇子もお目覚めになられました。共に、膳を頂きとう御座いまする」  此れに、控えていた御所の侍女や給仕の表情が明るくなった。幼い頃より馴染み深い旭を其々案じて居たのだろう、明るい返事が聞こえ、早速と膳の準備へと取り掛かる様子。続き、広く開かれた襖より膳が運び入れられる。旭へ、自力での食事は可能であるかと確認があったが、問題無いと。給仕と侍女が控え、食事中は二人きりとはならなかったのだが、昨日よりの余韻が旭を緊張させていた。  食事後。再び御殿医による診察を受けた旭。食欲もあり、他の症状も無し。順調に快方へ向かっている様子であると。念の為に本日一日、東宮御所にての安静を最終的な判断としたのだった。  旭の公務も上乗せとなり、多忙な佳宵であるが愛息の快復へ安堵し見送りにも顔を出してくれた。先ずの謝罪と感謝、明日より再び気を引き締め公務へ臨むと父へ強く誓い、冷泉と共に御所を後にしたのだった。そんな帰りの馬車内も、旭は何を話せば良いのか、気の効いた台詞が全く浮かばない。昨日己が口にした言葉から、続くに相応しい言葉が。  と、そんな中。 「――皇子」  冷泉の静かな声に、肩を跳ねてしまった旭だが。 「な、何でしょう……っ」
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