東宮妃の秘密。

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「嬉しゅう御座います。貴方と晴れて『めおと』となれました事……私には、正に夢の如く」  等と。何とも情けない顔を向けた旭へ、逆に冷泉は絵の如く美麗な笑みを向けてくれる。御殿医御墨付きの体調ではあるが、旭は目眩を覚えそうに。しかし、夢の如くは此方であると旭の頭の隅。未だに信じて良いのかと、僅かに警戒もある程だ。何せ、引く手余多の華やかな男子がと。  旭は、僅かに俯き。 「あの、でも……私は真に、其の様な粋も雅も心得は――」  取られた顎。冷泉の唇が、旭の言葉を止めてしまう。軽く触れ、徐に離された其のぬくもり。そして、優しく頬を撫でられて。 「どうでも良い。貴方の心を手に入れた……私には、其れが全て――皇子っ!?」  逆上せ、目眩を起こした旭の身が傾いたもので慌てる冷泉。 「や、はい……大事御座らぬ……」  旭は、冷泉の腕へ支えられ身を起こした。こんな甘い空気を味わう事が、己の人生に訪れようとはとまだ夢現の旭であった。  程無く、馬車は東宮御所へ。経緯の知らせを受けていた為、出迎えた臣下等の表情は硬いもの。館より出て来た旭と冷泉を、厳かな拝で出迎える姿が。此の雰囲気へ、旭も己の不甲斐無さを思い返し省みていた。 「皆、心配をお掛けし真に申し訳なかった。此の通り、大事無く帰って来られた……有り難う。面を上げて欲しい」  変わり無い旭の柔和な笑顔に、東宮御所にて仕える臣下達も安堵の表情を浮かべて其々顔を上げた。帝より書簡も届いているとの事で、本日はゆっくりと休んで又明日よりと。  静養との事で、旭は冷泉と共に後宮の私室へ。昨日の今日で、此れはかなり水準の高い状況ではと旭は緊張で身が固まる様であったが。
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