やって来た東宮妃。

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 欲目甚だしい子煩悩な父の強い言葉も、今の旭の心には届かなかった。押し潰されそうな程に気が重い。此れより、こんな日々が続くのか。どうせ后妃が男であるならば、妻帯等せず身内に帝位を譲る運びである方が良かったと、心より。本当に。  其れでも、慣例に抗う事も出来ない。伴侶を迎えた旭は、本日より御所の一室ではなく東宮御所が宛がわれた。此れより、此処で公務、日常を過ごす事となる。そして、一つ目にして、最も難関である初夜も此処でだ。逃げ場無い寝室の御帳にて、放心した旭が居た。最早涙も枯れた様子。そんな中、遂に。 「――皇子様。東宮妃様を御連れ致しました」  厳かな年配の女官が、襖の向こうで。逃げも隠れも出来まい。我に返った旭は、一度喉を鳴らし。 「お、御通しせよ……」  消えそうな声であったが、女官へは届いた。襖が開かれる音。そして、御帳へ近付く静かな足音。其の外より。 「皇子。失礼致しまする」  何と美しく、凛々しい低音だろうか。己が、読本で勝手に和泉の君へ想像であてていた声に近いとも。 「あ……どうぞ……」  其の声に、冷泉が御帳へと参った。再び腰を下ろし、旭へ拝をする冷泉。 「不束者には御座いまするが、どうか幾久しく――では」  と。言葉を終えると同時に、冷泉は旭へ影を落とす。そして、身を倒されてしまった。此れに、旭は当然酷く狼狽える。帯へ手を掛けられた処で。 「ちょっ?!えっ?!まっ、待たれよっ……!」  旭の声に、冷泉の動きが止まった。 「何でしょうか」  冷静に訊ねる冷泉。旭とは、全く空気感が違う様だ。 「いやいやいやっ、な、何をなさるおつもりか……っ!」
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