東宮妃の秘密。

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「は……?」  旭は、冷泉より逆に問われた事への真意が見い出せず、間の抜けた顔と声しか出なかった。其れと此れに、何の関係がと。しかしながら、冷泉の表情は神妙。 「皇子の推しは、主要人物であるどちらの男かと訊ねております」  更に答えを迫られた。脈絡無く何だかよく分からぬが、此れに旭の中でひとつの希望が湧く。そう、冷泉も己と同じく『あづき』の支持者であるかと。趣味が合えば、此れよりの在り方は大きく変わろうと、表情は明るくなった。 「何とも意外だが、冷泉殿も『あづき姫の恋日記』を愛読しておられたかっ!」  嬉しさに、前のめりになる旭であったが。 「どちらかをお答え下さい」  依然神妙な表情で、答えを促されてしまった。旭は、未だに食い違う此の空気間に気落ちしつつ身を戻した。 「あ、そう、でしたな……えぇと ……」  推しを答えろとの事だが、もう此処迄くれば、推しに関しては冷泉とは合わぬ事は明白だ。冷泉は、見た目も雰囲気も『和泉の君』に瓜二つ。そんな『和泉の君』へ、底知れぬ親近感も御持ちの筈。己の推しを答えたらば、討論になるかと息を飲む。しかし、嘘は付けぬと旭は腹を括った。討論となるならば、受けて立とう。其れこそ、夫夫足る第一歩であると。 「私は、『蛍の君』を推して居ります……!」  はっきりと、強く告げた其の声に表情が固まる冷泉。旭には、そんな冷泉の背後へ堕ちる稲妻すら見えた気がしたのだが。 「蛍……蛍、ですか……やはり……」  虚ろにそう呟く。討論開始かと身構えた旭へ、何故か項垂れ肩を落とす冷泉。どうした事か、論争処か戦意喪失の様子。酷く傷付いている様にも見えると、旭は案じて顔を覗き込もうとする。 「あ、あの……如何なされた……?」
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