東宮妃の秘密。

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 幼い頃より夢見がちで、絵を描いたり、物語を書く事を好んでいたのだとか。其の才は、身内の欲を差し引いても抜きん出たものであったと。しかしながら、皇族となると望まれる道は多くない。其の中に、作家という道は無かったのだと。両親揃って書き物等趣味で良いとの説得に、酷く悩み落ち込んだ小紫。冷泉含む従兄従姉(いとこ)等は年若い小紫を代わる代わる励ましていた。いつか筆で其の名を東西へ轟かせよ、そうともなれば、両親も認めざるを得まいと。  そんな後押しに、小紫が一念発起。心血注ぎ全てを懸けて作り上げたのが、此の『あづき姫の恋日記』であったのだと。 「――あづき姫の主な相手役に位置する男……実は、私ともう一人の従兄を模して居りますので」 「はっ、えっ……えっ……でっ、ではっ……『和泉の君』とは……っ!」  再び前へのめった、旭の身と輝く期待の眼差し。冷泉は、観念した様な溜め息の後。 「ええ……私に御座います」  静かな低い声に、旭は更に目を輝かせる。遂に、皆が聞きたかったが聞けぬ真を本人より知らされ、興奮が抑えきれないのだ。そんな旭が声すら忘れて居ると。 「只、ああも他者へ高圧的に振る舞う事等御座いませぬが……」  次いで冷泉の不満が漏れるも、旭には届かず。此の事実を百合や従姉妹等が知ったらば、腰から砕け倒れることだろうと。何せ此処に、原作者が認める本物の『和泉の君』が居るのだから。旭の興奮は当分止まぬだろう。  冷泉は、静かに語りながらも何かを思い出したのか、膝元の手が震える拳へ。
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