東宮妃の秘密。

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「知らぬ処での小紫による所業へ気付き、抗議に参った時には……既に世に放たれ飛ぶ勢いで売れに売れて、若い娘や成熟されたご婦人方の娯楽となって居りました。更に芝居公演の決定も相成り……遂には、我等に気が付いた和泉と蛍の支持者が、公務先にも集う様になり……」  当時の日々を思い返し、冷泉は吐き出す様に若干の早口で語った。  最早物語の内容、主要人物の改変等不可能な状況であった事。前帝である父も、素晴らしい経済効果であると御満悦。小紫の才と偉業を称え、宴を開いた程であったのだと。更には、小紫の両親へも口利きを。遂に両親すら、其の道を認めざるを得なくなったらしい。  旭は、そんな背景があったのかと。正に、麗しき幻想の世界の裏側。知ってならぬ事実を知った様な背徳感と、好奇心との狭間で揺れていた。 「な、なんともはや……あ、あの、蛍の君とされる方も、実在が……」  やはり推しの情報も知りたいと、僅かに勝った好奇心に、息を飲み斬り込む旭。此方は、冷泉にとっては余り語りたくは無い。何せ、旭の心を捕らえる者の話題なのだから。しかし、此の眼差しには逆らえぬと観念の溜め息。気を落ち着けた冷泉。 「蛍とされるもう一方の従兄は、賜った真の名は蛍雪(ケイセツ)と。言うなら、読本通りの気性です……当初は困惑と驚きが見られ、共に抗議に参ったが……最後は小紫が世に認められたのならば、もう良いかと相成り……慣れとは恐ろしいもので、私も何時しか其の方向へ」
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