東宮妃の秘密。

10/16
前へ
/187ページ
次へ
 旭は、語られる話にぼんやり口を開き頷く。冷泉と其の蛍雪なる貴公子の、影での苦労。多くの熱狂的な支持を頂くのも、良い事ばかりでは無い様だと。  旭の要望に脱線した話となり、若干疲労を覚える冷泉であったが。 「では、話を戻します。私が皇子の御側へ居るのが辛くなったのは、皇子が蛍を支持しておいでだと思い……私が和泉とされている事情も絡み、醜い嫉妬に駈られました……お気を煩わせ、真に申し訳御座いませんでした。私は、斯様に小さき男なのです」  冷泉は、旭へと頭を下げた。旭が思い悩んで居た、冷泉の態度。其の理由に、旭はやはり気恥ずかしさと嬉しさを覚える。冷泉が己の事で其処迄と。言葉に悩むが。 「そ、そんな事をお悩みであったのか……しかし、私は今迄語った事は……」  気になり、訊ねた旭へ冷泉は下げていた半身を起こし。 「公務の為に御部屋へ伺えば……蛍編の頁を広げ、心地良さげに眠って居られたもので」  あれかと思い当たる日がある旭は、恥じらいに狼狽える。 「い、いやっ、あれは、小休止の気分転換でっ……推しは蛍ではありますが、和泉編も愛読しておりますぞっ」  此れに、冷泉の表情が些か穏やかなものへ。 「真ですか」  そんな確認の声に旭は、隙の無い完璧な人と思っていた冷泉が、可愛いくも思えて。やはり顔は赤々と染まるが、己も冷泉へはっきりと告げなければならない。旭は、勇気を振り絞る。 「あのっ……冷泉殿は、小さいのでは無いと、思います。とても、繊細で一途なのでしょう……冷泉殿が居られるからこそ和泉の君が存在するのであって、冷泉殿は冷泉殿です。そして、推しは推し……こっ、恋するは、貴方だけに、ござ、御座います……っ」
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加