東宮妃の秘密。

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 冷泉は、俯いたまま小さく震える旭へ目を見張り只見詰める。寄る者の多くは偶像崇拝、己の面の皮一枚しか見て居らなんだ。真の恋が実らぬ己には、其れ以外の支持等虚しいばかり。しかし、無理矢理にも前を向くしかなかった。脱け殻のまま語る言の葉、歌、交わす情。酷く空虚な戯れは、何とも滑稽で。惨めで。そんな己は、皮を剥げば女々しくも、堅苦しい詰まらぬ男。そんな己へ、旭は恋をしてくれたのだと。 「皇子……」  まだ冷泉へ視線は向けられぬ旭だが、其の顔には照れながらも笑みが浮かぶ。 「現に、其の……蛍を推す私が、えぇっと……お、お慕いする方向へなったのですし……」  と、旭も素直に言葉が出てしまった。しかし、此れに冷泉は複雑な表情で咳払いを。 「皇子。もう其の辺りで……私も男故、自制が利かなくなる可能性が御座います」  冷泉にしてみれば、やはり此の状況は罪である。まだまだそんな雰囲気での程好い振る舞い分からぬ旭も、冷泉の言葉が何を意味するか分からぬ程幼い訳では無いので。 「えっ、あっ、も、申し訳、無い、のかな……」  其れから。冷泉は、気持ちを落ち着ける為にも己の私室へ戻る事に。御殿医の御墨付きの体調とはあるが、念の為にゆっくりと過ごして欲しいと念を押して。  一人私室に残った旭は、昨日から先程迄の思いが中々おさまらず。其れはもう、色々と。冷泉と恋仲へなった事、和泉の君が冷泉であった事、蛍の君も実在と。本当に色々な事が。旭は、私室の書棚へ歩み寄る。取り出し足るは、『あづき姫の恋日記、和泉の君編』。其れを広げ、頁を捲る。多くの才を持つ完璧主義、華やかな貴公子『和泉』は、他者へはつい振る舞いが高圧的に見えてしまう。
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