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そう言って、優しく微笑む冷泉。胸を大きく跳ねさせた旭は、手にあった箸を落とし掛けるも。
「いや、御心配を御掛けしたっ」
軽い言葉が何とか出たが、恥ずかしさに食事へ集中し、飯をかき込む旭。豪快な旭の姿へ、冷泉が案じる。
「皇子。食事は、体の為にも時を掛けねばなりませぬぞ」
冷泉の言葉に他給仕等も旭を案じ、おかわりならば沢山あると迄言わせてしまったと言う。
そして。遂に恋仲の夫夫となった二人に訪れた、夜である。
旭は、寝室の御帳にて身を正し座するまま固まっていた。
「――皇子様。東宮妃様がいらっしゃいました」
何時もと変わり無い皐月の声が、襖の向こうから。旭の肩が跳ねる。程無く、冷泉が寝室へ入る気配。そして。
「御疲れ様に御座います」
何時も通りに、労いの言葉と共に拝をくれた冷泉は御帳の中へ。旭は、いざ向かいあっても声が出ず。無理もなかろう、胸の鼓動は煩く、視線も合わせられぬのだから。
一方の冷泉は、暫しそんな旭を見詰めていたが。
「やはり、怖いですか」
少し憂える瞳に、旭は更に強く跳ねる鼓動を感じて。
「えっ、あっ、いえ……其のっ……」
最早言葉が紡げぬ程の緊張だ。そんな旭を冷泉は、変わらぬ瞳で見詰める。
「貴方の思いが最早義務では無いと申されるなら、私も事を無理に成そうとは思いませぬが……」
「いえっ……無理というか――」
突如、捕まれた腕が引かれ冷泉の方へのめる旭の身。其のまま倒れ込んだのは、冷泉の腕の中で。
「願わくば、焦がれ続けた貴方の全てを手にしとう御座います」
続き、優しく捕らえられた顎が冷泉の顔へと向けられて。
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