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顔を真っ赤に染め、身を縮込ませる旭へ、冷泉は静かに口を開いた。
「可笑しな事を宣いなさる。我等は晴れて『めおと』となったのですよ。婚儀の後は、初夜に御座いましょう」
何とも冷静に、平然と言うてくれる。冷泉には流れ作業なのかと、些か憤りも覚えた旭は力を込め身を起こした。寝衣を整えながら再び座する身を正し。
「こっ、此れでは、私の位置が決まっておるではありませぬかっ」
勇気を出して思いをぶつけてみたが、冷泉の表情は変わらず。
「優しく致しますよ。其れなりに心得はあります故。只、男子は初めてではありますが……もしや、皇子は男子の扱いに於いて玄人であられますか。であるならば、どうぞ」
身を正した冷泉の、潔くも鋭い切り返しだ。だが、旭は抉られた心が痛い。何故ならば。
「私は、其の……女子にも、男子にも斯様な経験は……ご、御座らぬ」
見栄も張れまい。張り方も心得ぬ。己で口にする言葉は、先程冷泉が切り裂き抉った傷口に塩を塗りたくる様な。
暫し漂う何とも言えぬ沈黙。
「笑うても構いませぬぞ……っ」
堪らず、止めを刺せと。
「いえ。誠実な御方だと」
そう返ってきた冷泉の声には、特に他意は感じられぬが。又も沈黙が漂う中、再び旭が。
「そもそも、私相手に欲が湧きますか。此の地味な面にっ」
よく見ろと、冷泉へ顔を突きつける様に前のめりに。物凄い開き直り、酷い自虐であるが貞操を守る為には、手段は選ばぬと。しかしながら、誓いを立てた伴侶相手に守る貞操とは此れ如何に。
が。冷泉は眉ひとつ動かさず、旭の容顔を見詰めたまま。
「又妙な事を。皇子は、可憐なだけにあらず、味もある美しい御方です。全く以て、問題は御座いませぬ」
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