東宮妃の秘密。

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「苦しかった……実ること無く、染まるばかりで……いとおしい……貴方だけが、ずっと欲しかった……っ――」  吐息交じりの、狂おしげな冷泉の熱い声。旭には、最早其れへ答える余裕は無い。其の熱に浮かされ、翻弄され、只焦がれて。  旭を腕に抱きながらも、冷泉にはまだ夢現な感覚が。何れ程思うた処で、旭は東の天子となる人。己は、西の皇子。其の膝元へすら向かえぬ身。けれど、肌より感じる旭のぬくもりが、己へと回される腕の強さが冷泉へ教えてくれる。只胸を焦がすだけの、虚しい恋が漸く実ったのだと。  少し遅れた初夜。其れは、旭が果て眠りに着いた事で一先ず。訪れた朝に、冷泉は初めて日課を途絶えさせた。隣で眠る旭の側より、離れがたくて。  穏やかな寝息を立てていた旭が、何時もより少し遅めに瞼を開いた。 「――御早う御座います」  其の直ぐ側で、聞こえた声に旭は声を出せずにいたが。 「お、御早よう御座います……」  僅かに遅れて、消えてしまいそうな程に小さな声で。旭が、昨夜の余韻にまだ身を動かす事は出来ずに居ると。 「体はどうですか?御公務に支障無き様、努めたつもりではあったのですが……」  其の理性も、昨夜ではかなり頼り無いものであったろうと自覚はある。表情を曇らせる冷泉へ、旭が恥じらいながらも苦笑い。 「あ、だ、大丈夫……何とか、うん……」  旭が身を起こそうとすると、冷泉は其れを支え晒された肌へも、寝衣を軽く掛けてくれた。旭にとって、こんな事が何気に出来る冷泉はやはり眩しく見えてしまう。
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