東宮妃の秘密。

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「本日の御公務、私が賄えるものは全てお渡し下さい。最終確認は、やはり御願いせねば成りませぬが……」  旭の体調が、やはりどうしても気に掛かるのだろう。其れに、原因は己でもあると冷泉は旭へ願う。 「いや、本当に大丈夫さ。此れでも、其れなりに鍛えて居るし……本日は外へ向かう事も無いんだ。執務位なら、何とかなるよ」  気恥ずかしさもありつつ、苦笑いを見せる旭。寧ろ、義務や体裁では無く、真に己自身を欲してくれたならば、其れは幸せな事なのだから。只、確かに下半身は体力云々の問題では無い気も。しかし、隙を見て休めば問題無いと。 「いえ。どうか」  更に押す冷泉の瞳は強いもの。条件反射で一瞬たじろいでしまうが、此れこそ冷泉の性分と思い至る。旭は、其れに表情を緩ませて。 「分かったよ、じゃあ御願いする。冷泉殿の方が早いしな……」  と、素直に依頼を。しかし、其の声の直後旭は冷泉より手を取られた。突然触れられた感触と、ぬくもりに旭は硬直。冷泉は、憂えげに手の甲へ柔らかな口付けを落とした。 「どうか、冷泉と御呼び頂けまするか……」  旭は、此れに顔より火を吹く程の衝撃。まるで、恋人の如くやり取り。いや、色々すっ飛ばして夫夫であるが。何より、冷泉は何故こうも斯様な雰囲気を出せるのか。やはり、此れが噂に聞く西の男足るであろうかと。 「えっ、あっ、はぁ……れっ、冷泉……」  尻すぼみの声が。茹で上がった顔からは、湯気も出そう。表情も今一つしまらないが、望みのままに返事を。すると。 「有り難う御座います。旭」  何とも美しく麗しい笑顔へ、逆上せてしまう旭。  取り敢えず。名実共にめおととなれた東西の皇子二人の政略結婚。此れより正に蜜月となろうが、果たして如何に。  旭の『冷泉様攻略の道』は、まだ続きそうだ。
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