蜜月とは。

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 再び瞳を光らせ、神妙に問うもので。 「ど、どうとは……?」  前のめり、顔を僅かに寄せてきた瑠璃へ旭も何気に寄ってみる。 「東宮妃様は、やはり例の番外編と同じ趣向を御持ちなの……?」  潜めた声にて、緊張気味に瑠璃の口から。旭が此れに、複雑な表情を浮かべる。  冷泉から特別に聞かされた、『あづき』の裏事情はそう容易く他言出来無い。其れに、あの特別番外編が冷泉の真かどうかはまだ定かでも無く。何より、恋人の趣向等を己以外が詳しく知るのも、やはり気分は良くないものだ。  旭は、瑠璃へ寄せた半身を元へ戻し再び書類へ筆を走らせた。 「そんな語り合いはしておらぬ。其れに、以前から和泉の君と冷泉殿は別だと話したろう……さ、此方は問題無い。御苦労様」  旭は、確認を済ませた書類を瑠璃へと差し出す。其の表情から不機嫌そうであると察した瑠璃だが、何故だろうかと首を捻りつつ。気になる事は多いが、本日は一先ず此処迄としたのだった。  取り敢えず、瑠璃を退けられた旭。昼を越えた頃であったか、次は冷泉が仕上がった書類を手にやって来た。恋仲であれ、其の立ち居振舞いは何ら変わり無く。美しく丁寧な拝の後で、上へ腰を降ろす旭の御前へと。 「――お疲れ様に御座います、皇子。此方が、仕上がりました書類に御座います」  公務中は、旭を名で呼ぶ事は控えて居る様で。しかし、瞳が合うと必ず微笑んでくれる事が旭には嬉しい一瞬。 「御苦労様」  照れながら、旭も笑みを浮かべて書類を確認し。と、此処で瑠璃との話題を思い出してしまう。公務を終えてからと考えて居たが、冷泉が来た事で、旭も答えを知りたい気持ちが沸き上がって来たのだ。無理もない、今の旭にとっては一番の関心事でもあるのだから。
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