蜜月とは。

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「あのっ……少々、お訊ねしたい事が……後、公務中だが……お、怒らないで欲しい……」  意を決した旭が、書類を差し出しつつ声を出した。そんな旭の様子に、目を丸くさせた冷泉ではあったが。 「何でしょうか」  優しく微笑んでくれた。其の笑みに、旭はときめきと嬉しさに硬い表情が揺るんだ。そして、執務机の引き出しへ忍ばせていた例の番外編を取り出した。 「あのっ……此れ、なのですが……冷泉も、同じなのかな、と……」  旭は、恐る恐る其れで盾を造る様に顔を隠して。其の書を前に、最初は何だろうかと冷泉の眉間へ皺が寄った。旭の手より其れを取ると、中を広げて暫く。みるみるひきつり出す、冷泉の表情。 「皇子、あの……此方をわざわざ……?」  何やら、含みある言葉が出てきた。完全予約の数量限定販売の上、作者の書き下ろし戯画がかなり多く盛り込まれた事が大きく、頁数から見ると少々割高なもの。更に、此れは書店で売られる読本とは少々異なり、西の出版所へ直接予約をするのだ。東の方は物資輸出入の関係で、かなり面倒な手順もある。其れを、わざわざ予約取り寄せをかと。  旭は、真っ赤になった顔を僅かに俯けて。 「や……婚礼等で、予約が抜けて居ったのですが……瑠璃より、何とか手に入れる事が……蛍の君も、い、和泉の君も、美しく描かれてて……か、感無量ですっ……」  冷泉も妙な恥じらいを感じる程。旭との婚約前、此れの為に情報調査の依頼があったのだ。当時は、誰が興味あるのかと半ば呆れた調子で筆を取ったのだが。 「あ、有り難う御座いました……」  興味を持って下さった、初恋の兄の君へ取り敢えず御買い上げの礼を。 「い、いえ……っ」
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