蜜月とは。

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「そう、なのか……何か、嬉しいな。甘党なら私もなので、共に楽しめるぞ」  夫が好むものを新たに知れた旭は、満面の笑みでそう喜びを口にした。只冷泉の方は、又も袴を握り締め耐える拳が。  精神も限界、公務中ともあり、冷泉は一先ず此の辺りでと切り上げる事に。合間の雑談位と付き合ってみたが、かなり理性を試されるものであった。  冷泉を見送り、執務室へ残った旭はまだ筆を取れず。読本を広げ、和泉の君の頁を眺めていた。 「果実酒は二番か……でも、後は本当なんだ……」  呟く独り言。やはり、此処へ書かれている事は殆どが冷泉の真の情報。そして、其れは限定とは言え、此の読本を手にした者全てが知るのだ。此れが旭の引っ掛かる処で。恐らく、冷泉は何の気無しに調査へ協力しただけであろうが。『和泉の君』でもある冷泉は、そうでなくとも人目を引く為に、支持者が多い。趣味嗜好迄知る者が、冷泉へ近付けばと考えると。冷泉が己をずっと思い続けてくれて、今も尚いとおしんでくれている事は伝わって居るが、やはり旭の中にある劣等感は不安を誘うものだから。旭は、区切りを付けて読本を閉じると執務に掛かり出す。隙を見付けて、後宮の方へ向かおうと。初めての恋に手探りの旭。思い付くのも、会瀬の時の量かと不器用な発想しか出来ぬ己へ呆れながら。  一方の冷泉。本日の執務を終え、やることも無く、後宮の私室にて琵琶を奏でていた。本日の此の時、夏も盛り故風を通す為に襖を目一杯開かれている。動きが可能な女官侍女等は、代わる代わるそんな冷泉を目当てに物見遊山。
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